第5章 -失恋特効薬-(岩泉/花巻)*
「ほら…。」
店員はコーヒーを淹れると、
ミルクのカップと砂糖とともに
すみれの目の前に置いた。
「ありがとうございます。
…?あの…わたし、ブラックで…」
「いつもはミルクも砂糖も入れてんだろ?」
「え…?」
「さっき、”今日は”っつってたじゃねーか。」
「…⁈それだけで⁇」
小さな声であぁ…と頷いた店員は、
すみれからそっぽ向いて、
洗ってあったカップを拭き始めた。
「で?何があったんだよ?」
「え…?」
すみれはポカンとして、
カウンターの中の店員を見つめる。
「なんかあったんじゃねーの?」
「いえ…何も…。
ただ、彼が…いつもブラックなんです。
だから、ブラックで飲んだら、
少しは彼の気持ちがわかるかな…
とか、思ってみたり…」
すみれは店員に促されると、
思わず少しだけ本音を話してしまう。
「ふぅん…で、そいつと喧嘩でもしたか?」
「…‼︎…そんな感じです。」
「ふぅん…」
店員は何も言わないが、
すみれをジッと睨むように見る。
暫くお互い黙って見つめあってしまうが、
すみれは店員の力強い視線に負け、
誤魔化すのをやめ、笑顔を作り、
本当のことを話してしまった。