第5章 -失恋特効薬-(岩泉/花巻)*
カランカラン…
カフェのドアを開けると、
壁中が大きな大きな本棚に覆われ、
その本棚にはビッシリ本がつまっている。
その本棚を見上げながら中へ進むと、
コーヒーのいい香りが漂ってきた。
「ん?なんだ?客か?」
「あ…はい。」
「じゃ、好きなトコ座れよ。
ま、カウンターしかねぇけどな。」
一見ぶっきらぼうに見えた店員に、
思わずビクッとしたすみれだったが、
すみれの目を見て、
カウンターの席に座るよう、
促してくれたので、
すみれは1番端の席に座った。
「なんにする?」
店員はメニューをすみれに渡す。
「うーん…」
コーヒー豆の名前を見ても、
すみれにはさっぱりわからない。
「迷ってんのか?」
「あんまり詳しくなくて…。」
「どんなのが好きなんだ?」
すみれとメニューを見ようと、
店員が前から身を乗り出してきた。
「(ドキッ…)酸味がなくて…
でも、香りがいいものなら…」
不覚にもすみれはその店員に
心をざわつかされてしまう。
「ミルクと砂糖は入れるのか?」
「あ…いえ…今日はブラックで…」
「(”今日は”…?)ふぅん…
んじゃ、コレがいいと思う。
ちょっと待ってろな。」
店員はすみれの
含みのあるようなことばに
一瞬反応するが、
すぐにコーヒー豆を決めると、
すみれの頭にポンと手をやり、
コーヒーを淹れる準備を始めた。
すみれはその店員の行動に
ポーッとしながらも、
コーヒーを淹れている店員を
興味深そうに店員の動きを眺めていた。