第3章 君の名を呼んだ
翌日、僕は自分の部屋から一歩も外へ出ないでいた。
……もう風間が有希ちゃんを迎えに行っている頃だろう。
左之さんが「せめて影からでも見送ってやれ」と声を掛けてくれたけど、僕はそれを丁重に断った。
有希ちゃんの顔を見てしまったら、きっと手離せなくなると思ったんだ。
強い焦燥感に煽られながらも必死でそれを抑え込み、膝を抱えている僕が居る部屋に向かって駆けて来る小刻みな足音が聞こえた。
「沖田さんっ……」
………有希ちゃんの声だ。
「沖田さん……居るんですよね?」
かたんと音を発てて、有希ちゃんが障子戸に縋り着く。
有希ちゃんが開けてしまわないように、僕は慌ててその障子戸を背中で押さえた。
「どうして…ですか?
どうして風間さんが来たんですか?」
有希ちゃんは涙声だ。
「土方さんに言われました。
……沖田さんはもう私と会うつもりは無いって。
だから風間さんと一緒に行くように……って。」
ああ…土方さんが悪役を買って出てくれたんだ。
「私の傷が癒えたら、その後はずっと一緒だって
言ってくれたじゃないですか。
なのに……どうしてっ……」
言いながら有希ちゃんの嗚咽が益々大きくなっていく。
今直ぐにでもこの障子戸を開け放って君を抱き締めたい。
僕の腕の中に閉じ込めてしまいたい。
だけど僕と有希ちゃんを隔てるこの薄い障子戸が、今の僕には天岩戸のように感じられた。
「沖田さん……お願い…です。
せめて声だけでもっ……聞かせて…下さい。」
「…………っ!」
有希ちゃんの懇願に名前を叫びそうになった僕は、慌てて自分の口を両手で塞いだ。
「………沖田…さん…」
とすんと音がして、遂に有希ちゃんは崩れ落ちてしまったようだ。
それでも尚、激しい嗚咽が止まる事は無かった。