第2章 僕は何かを失いそうだ
身体が固まってしまったように立ち尽くす僕の肩に左之さんの手が置かれる。
「松本先生の言う通りだ……総司。
お前は一旦、屯所に引き上げよう。」
「あ…ああ。そうだな。
いや、有希ちゃんの傷が癒えたらまた二人で暮らせば良いし…
それが不安なら、二人でもっと遠くへ逃げたって良い。」
僕を慰めるように、新八さんも努めて明るく言ってくれた。
「彼女を引き離す事が沖田君にとって
何よりも辛い事だとは分かっている。
だが、これは君の命と彼女の命を守る為に必要なんだ。
……分かってくれるね?」
松本先生の言葉に、僕は頷いてから言った。
「有希ちゃんに……会っても良いですか?」
「ああ……勿論、構わないよ。
ただ少し熱があるようだから
あまり疲れさせないでやってくれ。」
僕が一人で有希ちゃんの居る部屋に入ると
「……沖田さん。」
布団の中で横になっていた有希ちゃんが、途端に起き上がろうとした。
僕は慌てて駆け寄って、有希ちゃんの身体を支える。
「沖田さん……大丈夫でしたか?」
心配そうな顔をして僕を見つめる有希ちゃんに、ぎりぎりと胸が締め付けられてしまう。
大丈夫?…って聞かなくちゃいけないのは僕の方なのに。
「……うん。」
そんな返事しか出来ない僕に向かって有希ちゃんは「良かった」と、本当に嬉しそうに笑った。
「有希ちゃん…怖かったよね?
痛かったよね?
僕のせいだ……ごめんね。」
「沖田さんが背中に庇ってくれたから怖くなんて無かったですよ。
傷は少し痛みますけど、これくらい平気です。」
血の気の失せた顔でにこにこと笑って気丈に振る舞う有希ちゃんが余計に痛々しい。