第2章 僕は何かを失いそうだ
医学所に着くと有希ちゃんは直ぐに松本先生の元へ運ばれた。
発作が落ち着いた僕は、新八さんと左之さんと一緒に別の部屋で有希ちゃんの処置が終わるのを待っている。
「それにしても俺達が通り掛かって良かったぜ。」
新八さんが安堵したように言う。
「ああ。
それで…お前を襲ったあいつらは誰だか分かってるのか?」
左之さんは僕に問い掛けた。
「肥後勤王党の宮部…とかいう人の仇だって言ってた。」
僕の答えに一瞬息を飲んだ新八さんが
「池田屋の残党か……」
と、悔しそうに呟く。
「そういう輩はまだまだ居るんだろうな。」
その左之さんの言葉に僕達三人が沈痛な面持ちで黙り込んでいると、静かに襖が開いて松本先生が入って来た。
「松本先生っ……有希ちゃんは……?」
僕は弾かれたように立ち上がり、松本先生に飛び掛かった。
「ああ、大丈夫だよ。命に別状は無い。」
その言葉に僕はやっと生きた心地を取り戻す。
「ただ、右肩を斬られているからね。
暫くは腕を動かす事が難しいだろう。
そこでだ……沖田君。」
松本先生は僅かに辛そうな表情で僕を見つめる。
「彼女を君の元に帰した所で碌に家事も出来ないだろう。
傷が塞がるまでは安静にしていて貰いたいんだ。」
僕は当たり前だと言うように、うんうんと何度も頷いた。
「だから、彼女は暫く此処で預かるよ。
しかし君を一人にしておく訳にはいかないし……
沖田君は屯所に戻りなさい。」
「え………?」
僕は松本先生の口から紡がれた意外な言葉に動揺した。
「僕も…僕も此処に居ちゃ駄目ですか?
有希ちゃんの側に居たいんだ。
松本先生には迷惑を掛けないようにするからっ……」
慌てて懇願する僕に向かって、松本先生はゆっくりと首を横に振ってから幼子を諭すように言う。
「申し訳無いが………沖田君。
もしまた君を狙う輩が此処に現れたとしたら…
我々では君と彼女を守れない。」
僕は絶句した。
そうだ、僕は有希ちゃんを守れなかった。
僕では有希ちゃんを守れない。
……そんな僕の側に有希ちゃんを置いておく訳にはいかないんだ。