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薄桜鬼~100万回言うよ~

第2章 僕は何かを失いそうだ


「………松本先生から…聞いた?」

僕の問いに有希ちゃんの笑顔が僅かに曇った。

「……はい。
 傷が癒えるまで此処で暮らすように…って。」

「うん。僕もそうした方が良いと思う。」

「沖田さんは?」

不安そうに僕の顔を見つめる有希ちゃんの頬にそっと手を添える。

「僕は一旦屯所に戻るよ。
 そして有希ちゃんの身体が良くなったらまた二人で暮らそう。」

悲しそうに俯いた有希ちゃんの頬を優しく撫でながら、僕は続けて言った。

「それでね……松本先生の許可が出るまでは
 君に会いに来られないんだ。」

「何故……ですか?」

「さっきみたいな奴等がまた此処に現れたら困るでしょ?
 松本先生やお弟子さん達にも危険な思いをさせる事になる。」

有希ちゃんは僕の言う事を理解してくれたようだ。

それでもその目にはじわりと涙が浮かんでいた。

「ああ……そんな顔しないで、有希ちゃん。
 大丈夫、君の傷が癒えたら直ぐに迎えに来るよ。
 その後はもう…ずっと一緒だからね。」

「はい。……寂しいけど、我慢します。」

再び微笑んでくれた有希ちゃんに、僕は堪らず口付ける。

その甘く柔らかい感触から離れ難くて、少しだけ舌を絡ませた。

………きっと我慢出来ないのは僕の方だ。


「じゃあ、新八さんと左之さんが待ってるから…行くね。」

有希ちゃんの身体を手離して僕が立ち上がると

「沖田さん……」

有希ちゃんがまた泣き出しそうな顔をした。

「ほら、またそんな顔をして僕を困らせる。
 有希ちゃんは傷を癒す事だけを考えて。
 そうすればまた直ぐに会えるよ。」

それでも尚、不安そうな有希ちゃんを安心させるように僕はにっこりと笑って「じゃあね」と部屋を出てから、何かを吹っ切るようにぴしゃりと襖を閉じる。

そして新八さんと左之さんに連れられて屯所に戻った僕は、その足で土方さんの部屋へ向かった。
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