第2章 僕は何かを失いそうだ
「……………っ」
瞬間、振り下ろされた刀が有希ちゃんの右肩を擦り、その部分の着物がじわりと紅く染まった。
それを見た僕の身体が、生まれて初めて恐怖で震える。
僕はどうなっても構わない。
でも、お願いだから…有希ちゃんだけは。
恥も外聞もかなぐり捨てて男達にそう懇願しようと思ったその時……
「総司っ……!」
路地の奥の暗がりから、新八さんと左之さんが此方に駆けて来るのが見えた。
その姿に息を飲んだ男達が
「永倉と原田か……」
「あの二人を相手にするのは厄介だ。
………仕方が無い。今日は退いてやる。」
「沖田…これで済んだと思うなよ。
また何時か必ず仇は果たさせて貰うからな!」
無念を滲ませた言葉を僕に叩き付けて走り去る。
「総司……有希っ…大丈夫か?」
新八さんと左之さんは男達を追う事はせず、直ぐに僕と有希ちゃんの身体を支えてくれた。
僕の肩を抱えた新八さんに僕は必死で訴える。
「有希ちゃん……有希ちゃんを助けて…」
「大丈夫だ。
直ぐに松本先生の所に連れて行ってやる。」
有希ちゃんを横抱きにした左之さんは、言うや否や駆け出した。
「歩けるか……総司?」
「………うん。
僕は大丈夫だから……お願い…有希ちゃんを……」
「分かったから、もう喋るな。
お前も松本先生の所に行くぞ。」
新八さんは僕の身体を支えながら立ち上がった。