【進撃の巨人】 never ending dream R18
第35章 静夜思
“俺…子供の頃、一度だけ団長に会った事があるんです。”
エレンがそうリヴァイに打ち明けたのは、サラが亡くなってちょうど1年後の事だった。
互いにシガンシナで生まれ育ったというエレンとサラ。
いくらでも接点はありそうだとリヴァイは思っていたが、その出会いはあまりにも意外なものだった。
“団長から桃をもらったんです。”
そう、懐かしそうな表情を浮かべながら、エレンはリヴァイにあの日の話をした。
シガンシナの草原で薪を拾っていたエレンは、大きな木の下でしゃがむサラを見つけたという。
何をしているのかと尋ねたエレンに、サラはこう言った。
“昔、ここに私が住んでいた家があったんだ。”
そんなサラは、エレンに桃を手渡したそうだ。
その場所は偶然にも、20年前のあの日、サラが命を落とした場所だった。
そして、現在はリヴァイが住むこの平屋の家が建つ場所だ。
朱色の光が差し込む台所で、リヴァイはもらったばかりの桃を切る。
「…お前は風邪ばかり引いていた。」
桃の香りに甦るサラの思い出。
リヴァイはそうつぶやくと、切り立ての桃を一口食べて笑った。
エレンがサラと出会った日の事は、リヴァイも鮮明に記憶していた。
あれはリヴァイが調査兵団に入団して間もなくの事だった。
桃の入った大きな紙袋を抱えて帰って来たサラは、その日の夜、兵舎の廊下で倒れている所をナナバに発見され、医務室に運ばれた。
次の日、リヴァイが医務室を訪れると、サラはベッドの上で美味しそうに桃を頬張っていた。
“風邪を引いたみたい。”
そう恥ずかしそうに微笑むサラ。
そんな他愛のない日常。
その全てが、今のリヴァイにとっては“特別”だった。