【進撃の巨人】 never ending dream R18
第35章 静夜思
「きちんと薬は飲んでますか?」
「………。」
「処方した分はきちんと飲んでもらわないと困ります。
…進行を遅らせる事が出来るんですから。」
診察を終えると、エレンは鞄から「1週間分です。」と薬の入った紙袋を取り出した。
リヴァイは「あぁ、すまない。」とその袋を受け取る。
もう、このやり取りを何度繰り返しただろうか。
手術を受ければ完治する事も可能だと言われた事もあったのだが、一切の治療をリヴァイは拒んだ。
そんなリヴァイに対し、エレンも決して無理強いをする事はなかった。
週に1度の訪問診療。
それすらも、リヴァイは正直必要無いとすら感じていた。
「1週間後にまた来ます。」
「…あぁ。」
とくに話をする事もなく、エレンは部屋を出る。
以前はハンジとともに訪れた壁外の世界の話をしたりもしたが、最近では淡々と診察をするだけの事が多くなっていた。
正直リヴァイにとってはその方が都合が良かった。
もう、エレンは調査兵時代の部下ではない。
患者と医者。
治療を受けるつもりのないリヴァイにとっては、あまり長居をされても困る相手だった。
「それじゃあ、失礼します。」と、エレンは深々と頭を下げた。
そんなエレンを、リヴァイは家の外まで見送る。
先ほどまでの青空は徐々に色を変え、辺りは柔らかな朱色の光をまとっていた。
「そういえば…」と、エレンは門の前で急に脚を止めた。
不思議そうに見つめるリヴァイの横で、エレンは鞄の中から紙袋を取り出す。
クシャクシャになった大きな紙袋。
その袋からはほのかに甘い香りが漂っていた。
「もうすぐ団長の命日でしたよね。」
そう言いながら、エレンはその紙袋をリヴァイへと手渡す。
「団長は桃がお好きでしたよね?」
袋の中には、数個の大きな桃が入っていた。