【進撃の巨人】 never ending dream R18
第32章 エルヴィン・スミス②
“もし私がいなくなった時は、別の女性を愛してあげて下さいね。”
あれはいつだっただろうかと、エルヴィンは記憶の中を探る。
確かあれは、サユリが亡くなる数ヵ月前。
壁外調査を終え、一時帰宅を許された日の事。
子供達が眠り、食卓で葡萄酒を飲んでいたエルヴィンに、サユリが突然言い出した言葉だった。
何を言い出すんだと吹き出すエルヴィンに、サユリは真剣な眼差しでこう言っていた。
“あなたは弱い人だから。
ひとりでは生きていかないで下さい。”
サユリがこの世を去ったのはそれからわずか数ヵ月後。
まるで自分の最期が分かっていたようなサユリの言葉は、数十年経った今も、エルヴィンの心の中に深く刻まれ続けていた。
「サユリ…君にはいつも全てを見透かされているような…そんな気がしていたよ。」
雲の隙間から再び顔を覗かせた月に向かい、エルヴィンはそうつぶやく。
“クレア・カーティス”
サユリ以外の女性と関係を結ぶ事に後ろめたさや罪悪感を持った事もあったのだが、そんなクレアとの出会いさえも、まるでサユリが導いてくれた事なのではと思う時もあった。
サユリの大きな愛の中でこれまで生きてきた。
そう思い、エルヴィンは空から降り注ぐ月明かりに、そっと顔をほころばせた。