【進撃の巨人】 never ending dream R18
第32章 エルヴィン・スミス②
844年
団長室の机に向かい、明日から行われる壁外調査の陣形図を見つめていたエルヴィンは、大きなため息をつきながら椅子にもたれかかった。
時計を見ると午前1時。
他に起きている者などいないだろう。
明日から行われる第22回壁外調査には、3年前からこの調査兵団の兵士としてともに戦ってきた娘のサラ、そして今期の新兵である息子のトージも参加する事になっていた。
守るべき愛する家族。
その家族を危険な壁外へと連れ、巨人と戦う。
こんな未来は本意ではなかったと、エルヴィンは陣形図を懐へしまった。
ふと、後ろを振り向くと、カーテンの閉められていない窓からはわずかに星空が望めた。
エルヴィンは椅子から立ち上がり、ゆっくりと窓際へ近付く。
暗い窓ガラスには疲れきった自分の顔が映し出されたが、その奧には何とも美しい月が姿を現していた。
「…サユリ。」
エルヴィンは月を見上げながら、そうつぶやく。
ぼんやりと輝く月明かりを瞳に映し、おもむろに胸元のループタイを握り締めた。
「サユリ…。
君がここに居たなら、俺を責めるのか?
それとも…“間違ってなどいない”と、許してくれるのか?」
こうして月に語りかけるようになってどれ位経つのだろうか。
エルヴィンはループタイを握り締める手にそっと力を込める。
風に流された雲が、月の姿をわずかに隠す。
ふと、遠くからサユリの声が聞こえたような気がし、エルヴィンはそっと瞳を閉じた。