【進撃の巨人】 never ending dream R18
第22章 咽び泣く~違和感~
何とか落ち着きを取り戻した私は、「今夜は俺の家に泊まりなさい。」というキースの申し出を断り、クレアが待つであろう女子棟の部屋へと戻った。
涙はすでに枯れ果ててはいたが、ぐちゃぐちゃにかき乱された感情は空虚感へと変わり、重く…私の心へとのし掛かってくる。
“…エルヴィンは、悪い父親だ。”
キースの言う通りだと、私は兵舎へと続く渡り廊下を歩きながら思う。
しかし、私は知っていた。
キースにもまた、愛する妻子の死後、想いを寄せ続けている女性がいた事を。
キースの留守中、机の引き出しを開け、画用紙とクレヨンを探していた時の事だった。
乱雑する引き出しの奥から、ひとりの女性へと宛てたたくさんの手紙が出てきた。
“カルラ”という女性に宛てた手紙。
その手紙はどれも書きかけで、きっとキースの想いは…愛する彼女へと届く事は無かったのだろう。
私は…母がいなくなったあの日から、一日たりとも母を忘れたことなど無かった。
しかし…父やキースはどうなのだろうか。
会えなければ、側にいなければ…忘れてしまうものなのだろうか。
ふと、辺りが妙に明るい事に気付き、私は立ち止まる。
渡り廊下から見上げた夜空には半輪の月がかかり、煌々とした光を地上へ放っていた。
こうして光っていないと誰も月を見ないように、生きていないと…愛する人であっても、“見なく”なってしまうのだろうか。
死んでしまったら…忘れてしまうものなのだろうか。
光っていないと…生きていないと…誰も見ない。
そんな事を…考えていた。