【進撃の巨人】 never ending dream R18
第21章 咽び泣く~戸惑い~●
私は団長室の前の廊下で、モーゼスがやって来るのを待ち続けた。
訓練を終えたモーゼスがそこを通るかは分からなかったが、日頃から兵舎と団長室の往復しかしていない私には、モーゼスと接触する方法など、他には見当たらなかったのだ。
何時間待っただろうか。
すっかりと日は落ち、辺りは暗闇に包まれはじめていた。
ずっと握り締めていた紙袋はクシャクシャになり、中のケーキもきっと冷たくなってしまっていただろう。
そろそろ、兵舎へと戻らなければ…。
そう思い、後ろを振り返ったその時だった。
コツンコツンと足音を鳴らし、こちらへと近付いて来る人影が見えた。
薄暗い廊下の奥。
私は目を凝らし、足音の正体を確かめる。
徐々に近付くその人影。
それは…仮面を被ったような無表情の父であった。
私は慌ててケーキの入った紙袋を後ろへと隠す。
そんな私の横を、父は通り過ぎて行った。
一瞬、目が合ったような気がしたが、決して言葉を交わす事はない。
当然だろう。
私が部屋を追い出され、女子棟へ移動してからというもの、父との会話は無いに等しかったのだから。
薄暗い廊下へと消えていく父の後ろ姿を、私はじっと見つめていた。
ただひとつ、不思議だった事がある。
それは、すれ違う父の身体から、なぜか甘いバニラ砂糖の香りがした事だった。