【進撃の巨人】 never ending dream R18
第21章 咽び泣く~戸惑い~●
「よく分かったな。
お前…あんなに小さかったのにな。」
そう話すモーゼスの笑顔はどこか憂いを帯びていて、優しく頭を撫で続ける手を払いのける気にはなれず、私はただうつむきながら、モーゼスの大きな手の温もりを素直に受け止めた。
「ねぇ…母さんを見た事があるの?」
「あぁ。もちろんだ。」
私の問い掛けに、モーゼスは真剣な眼差しで答える。
母が他界してから5年。
私の記憶の中の母は、曇りガラスを通して見ているような、ぼんやりとした存在になりつつあったのだ。
「…どんな人だった?」
「そうだな…黒髪のとても美しい人だったよ。
小柄で、つぶらな黒い瞳がとても印象的だった。
最後に見たのは、確か夏の暑い日だ。
長い髪をひとつに結わえ、お前達と笑顔で手を繋ぐ姿は、ガキだった俺でも見とれてしまうような、美しさだったよ。」
モーゼスが語る母の姿。
モーゼスの言葉を頼りに、私は母の顔を思い浮かべる。
しかし、私の記憶の中、曇りガラスの向こう側にいる母が、その顔を覗かせてくれる事は無かった。
「ねぇ、母さんは髪をひとつに結わえていたの?」
私の記憶の中の母は、長い黒髪をいつも下ろしていたような気がした。
「あぁ、俺が見た時はそうだった。」
そう答えるモーゼスに、私は「教えてくれて、ありがとう。」と、恥ずかしそうに微笑む。
そんな私の顔を見て、モーゼスはこう言った。
「お前…目元はエルヴィン分隊長にそっくりだが、笑った顔は母親そっくりだよ。」