【進撃の巨人】 never ending dream R18
第20章 咽び泣く~生き方~
気が付けば辺りは暗く、黄昏の薄明だけが、団長室の窓からわずかな光を届けていた。
サラは落ち着きを取り戻したペトラの手を離し、ランプに明かりを灯そうと立ち上がる。
恋人を失う苦しみ。
その痛みを半分引き受ける事などは無理な話だが、少しでも傷付いたペトラの心に寄り添っていたい。
そう、サラは思っていた。
「すみません。
…団長の方が…辛かったはずですよね。」
壁にかけられたランプへと手を伸ばすサラへ向け、ペトラがそうポツリとつぶやく。
その言葉の意味が分からず、サラは不思議そうに首を傾げた。
「団長も…ご家族を壁外調査で亡くされていますよね?」
「…えぇ。」
あぁ、その事かと、サラは短く返事を返す。
「私なんかよりも、辛い経験をされているのに…」
「ペトラ。
私達の“辛い”という感情に優劣は無い。
君が“辛い”と思えば、それは“辛い”んだよ。」
弱々しいペトラの言葉を遮るように、サラはランプへと炎を灯しながら、そう告げた。
ランプの柔らかな明かりが部屋に広がっていく。
ふと、ソファーに座るペトラへ視線を移すと、ぼんやりとした光の中、ペトラの泣き顔が見えた。
サラは再びペトラの横へと腰を下ろす。
残酷な現実を受け止め、必死に生きようと涙をこぼすペトラの小さな身体を、サラは優しく抱き寄せた。
「辛かったね。
今日は気が済むまで付き合うから、たくさん泣いてもいいよ。」
まるで子供に語り掛けるかのような穏やかなその口振りに、ペトラは甘えるようにサラの胸へと顔を埋める。
そんなペトラの長い髪を撫でながら、サラは抱き寄せた小さな身体から溢れ出す悲しみを、いつまでも受け止め続けていた。