【進撃の巨人】 never ending dream R18
第19章 咽び泣く~居場所~●
「ミケさん…ミケさん…。」と、うわ言を繰り返すゲルガーを背中に担ぎ、ミケはゆっくりと歩きだす。
その後ろ姿を、ナナバはただ見つめ続けた。
今この瞬間に、ミケを嫌いになれたらどれだけ楽なのだろうとナナバは思う。
そうすれば、ミケの言動に一喜一憂する事も無い。
期待する事も無ければ、虚脱感を感じる事も無い。
ミケを目で追う事も無くなれば、ミケの夢を見る日も無くなる。
それなのに…どうしてだろう。
ミケの腕に触れただけで、こんなにも身体が熱くなってしまうんだ。
遠ざかるミケの後ろ姿を見つめ、ナナバはそう思った。
ふと、思い出したようにミケが振り返る。
暗闇の中、その表情を読み取る事は出来ないが、きっと悲しい顔をしているに違いない。
確認せずとも、お互いの事がこんなにもよく分かってしまう。
きっと…長く一緒に居すぎたのだと、ナナバは憂いを帯びた笑顔を向けた。
その時だった。
「帰るぞ。」
そう言いながら、ミケはナナバへ向け、そっと手を伸ばした。
いつか見た光景…。
あれは夕暮れの帰り道。
背が高く、髪が短かかったせいか、いつも男の子達からからかわれていた私を助けてくれた。
泣くもんかと、瞳に涙を浮かべる私へ、“帰るぞ。”と、手を差し伸べてくれた…。
そう…私はあの日から、ずっとこの手が欲しかった。
今この手を繋いでしまったら、きっと自分はまた、この叶わぬ恋に期待し、現実を知り、胸を痛める日々が続くのだろうとナナバは思う。
それでも…この胸の鼓動を止められるわけないじゃない…。
ナナバはミケへ駆け寄ると、その手をそっと繋いだ。
「…恋をするのも…楽じゃないな…。」
ミケがそうポツリとつぶやく。
ナナバは「えぇ。」と一言だけ答えると、そのままふたりは黙って歩き出した。
ふたりの頭上では、数え切れないほどの星が空を埋め尽くしていた。
愛する人の視線の先にいるのが自分ではなくても、愛する人の隣で恋の痛みを“共有する”…そんな関係も素敵じゃないと、ナナバは繋いだ手にそっと力を込めた。