第10章 狙い狙われ
「安心しなさい、あなたにはあなたのまた別のバカさがあります。少なくともバイオ兵器に成りうる程底は抜けていません」
「・・・スゲーイラッとすんな、この野郎。折角磯まで連れてってやったのに、恩を知らねえヤツだ、うん」
「行き違いでしたけどね」
「バッカ、それ、オイラにゃ関係ねえだろ?八つ当たりすんなってんだ、この蒲鉾野郎」
「はあ、成る程。いいでしょう。私と角都の煮物で腹ごしらえしたら、あなたのマゲで書き初めといきましょうか。あなたのその髪型、さっぱり存在意義が掴めなくて苛ついてましたが、正月の為の伏線だったんですねえ。三百六十五分の一日の為にボケ通しとは、あなた潜る門戸を間違えましたよ。言っときますけどね、ここにダウンタウンとかいませんから。木村の兄さんも不在ですから」
「誰が流れ星だァ!あぁ、うん?」
「・・・事務所が違いますよ」
「・・・ペイン、皆まとめて煮付けちゃっていいから。また初めからやり直しましょう。良い機会だから、お正月に全て灰塵に帰してしまいましょう」
「・・・護衛の依頼、受けるつもりのあるヤツは?」
押しきったペインの言葉に、イタチと鬼鮫の手が上がった。しかし、その他に一本。
「飛段?いや待て、角都の意向は・・・」
「護衛ったって、俺はフカのおっさんは知らねえよ。そりゃ頼まれたそいつらがやったらいい。だが牡蠣殻の護衛には打ってつけだろ。血くらいでくたばんねえからよ、俺は」
飛段は首から下げたネックレスのトップスを弄りながら事も無げに言う。
「あの惚けた女から目を離していい道理はねえよな。だから俺が面倒見てやろうっての」
「・・・今していた話と関係が」
「ねえわきゃねえの。あったま固ェなァ。ま、いんだけどよ。ここにいてそうそう危ねえメに会うとは思わねえよ。メンバーに殺られねえ限り。でもよ、アイツ、磯のヤツだろ?すり抜けんぞ、あの連中は」
「お前、磯を知っているのか?」
「あー・・・、前に一遍襲った事があんだなァ。ジャシン教に入ってすぐだったか。えれェ逃げっぷりだったぜ。気味悪ィ。幽霊みたような気になっちまった」
首の後ろをガリガリ掻いて飛段は顔をしかめた。
「鬼鮫、恩に着られてやっからよ。ちっとはうちのじいさんに金になる血を分けてくれよ。最近依頼が減っちまって、難儀してンだよなあ。やんなっちまうぜ、俺アじじばばっこでよ」