第10章 狙い狙われ
「ああ、気持ちね。雰囲気かな?で?」
「見当たりません。そもそも木の葉へ移動する前から見かけた者がおりません。ふ。弟?」
「牡蠣殻に弟はいないですよ。そこまで似ちゃいません。しかし見当たりませんか。嫌な予感がしますねえ」
言わんこっちゃないとばかりの目で睨んでいる藻裾の方を見ないようにして、波平はシカマルに顔を向ける。
「仕事、なくなりましたね」
「はあ・・・?」
「おいおい、どうしたんだ?見当たらないって?あの例の・・・」
尋ねるアスマに片手を上げて、
「見当たらないんじゃ仕様がない。捜すしかありません。藻裾、五代目に連絡したら、早急に手配なさい」
「一、五で?」
「移動距離が長いからね。四、八。必要があれば十」
「十?」
「火急の事態と思って宜しい。そのつもりで対処するように」
「・・・そんな事言ってこないだも謀ったじゃありませんか」
斜め下を向いて藻裾がぶつぶつ言う。
「茸を採りに行かせるだけの事に火急の事態って、敵有りきで出張ってんですよ、こっちは。お陰で何の関係もない通りすがりの他人に、怪しいってだけで襲いかかっちまって、挙げ句に軽く返り討ち食らって、ムカつくやら頭来るやら腹が立つやら、あのジャンジャンジャンジャンうっせえ人形遣いが。テメエは鉄鍋かっつうの」
「・・・それはお前の短気と早とちりが産んだ結果でしょう。まだ根に持ってるんですか。罪もないのに襲いかかられた挙げ句、いつまでも恨まれてたんじゃ採算度外視にも程がある。気の毒な・・・兎に角、必要があれば十、いいですね」
「・・・ち」
「舌打ちは止めなさい。舌を引き抜きますよ」
「・・・承知しました」
「チャンピオンばかり読んでないでジャンプも読みなさい」
「アタシはコミック派です」
最後まで小声でヒソヒソと話し通すと、一礼して退がった。
シカマルとアスマは呆気に取られてそれを見送った。小柄で小声で毒舌の三拍子。
「ああ見えて優秀なのです。磯の者は口巧者が多くてね」
「口巧者?口が悪いんだろう、アレは」
「そうかな」
波平は顎の下で両手を組み、茫洋と将棋盤を眺めた。
窓の外に、羽音が着いた。
「ああ・・・。悪いがアスマ、窓を開けてくれ。また部下のお出ましだ」
「・・・部下って、伝書だろ、コレ?」
舞い込んできた木偶の坊に、アスマは目を丸くした。
「磯に伝書なんかいるのか」