第10章 狙い狙われ
波平がコツリと歩兵を動かしながら顔も上げずに言う。
「うちの里人を一人護衛して欲しいのですよ。何、放っておけば一人でいつまでも本を読んでいるような大人しいヤツです。木の葉にいて間違いはないとは思いますがね、今は一応目を離さない方がいいようなので、まあ、護衛というより監視、いや、監視というより何となく見ていてくれればそれでいい。単刀直入に護衛だ監視だと言うと、へそを曲げて逃げ出しかねないところがあるので、側で極力ボンヤリしていて下さい」
「・・・何スか、ソレ」
「任務ですよ。五代目にも話を通してある立派な任務です」
「ボンヤリしてるのが?」
「一見馬鹿げて見える事ほど不自然なく故意に行うのは難しい。お友達と語らって無駄話でもしていて下さいよ」
ここまで言うと、波平は傍らのアスマを見上げた。
「聞けば今回磯を護衛してくれていたのは君たちだったとか。改めて礼を言わせて貰いたい。ありがとう」
「別に、仕事ッスから」
「しかしアスマ、お前打ち上げもしてやらなかったと聞いたが本当か?」
「あ、そうなんスよ、バックレやがってこのオヤジ」
シカマルに睨まれてアスマは咳き込んだ。
「バックレちゃいねえよ、たまたま用が・・・」
「女か」
波平は何と言うこともない調子で、小指を立てて見せる。
「成る程お前、会っていたな。くれな・・・」
「わーかった!改めて打ち上げだ。是非打ち上げさせて下さい」
「初めからそうすりゃ良かったんだよ、たく、万年金欠って何に金使ってんだ、アンタは」
シカマルの台詞に波平がまた小指を立てる。
「女か。お前、さてはつぎ込んでいるな。くれな・・・」
「止めろって。わかった、わかった波平、呑みに行こう。奢る!」
「因みに詳細はカカシに聞いたのだが、アイツから奢りも吝かでないと伝言を貰っている」
「カカシも連れて行く。この話は終わり!以上!シカマル、わかったらさっさと行け!」
「行けったって、相手はどこの誰なのよ?」
「ああ、今居所を・・・」
波平が言いかけたのを控え目なノックが遮った。
「波平様」
ドアが細く開いて、隙間から見かけない女が小さな顔を出す。磯の里人だろう。しかし声が小さい。
「藻裾。牡蠣殻は見つかりましたか?」
「・・・ん・・?」
藻裾と呼ばれた女はシカマルをチラリと見て変な顔をした。
「・・・牡蠣殻さん?に、似てる・・・か・・?」