第10章 狙い狙われ
「・・・人を試すの、止めてくんないスかね」
「成る程頭いいね、君。空気を読むのに長けてる」
波平はやっとシカマルに目線を当てて、満更お世辞でもない様子で頷いた。
「で、鼻が高くてならないわけだな、アスマ」
「まあな。バラすなよ、波平」
窓の外から聞き慣れた声がして、十班担当教員のアスマが姿を現した。
シカマルは呆れ顔で二人を見比べ、
「いい大人が何やってんスか」
うんざりしたように姿勢を崩した。
「まあそう言うな。自慢の教え子を見せびらかしたかったんだよ。なあ、どうだ先輩、コイツは」
「いいね、賢そうだ。先が楽しみなコだよ。惜しむらくは少々私と同じ匂いがする。これは非常に惜しい」
眼鏡のツルに手をかけて波平はアスマとシカマルを交互に見た。
「同時にお前と同じ気配がある。単刀直入に言って、面白い。更には全く関係ないが、心無し私の補佐に似ていて親近感が湧くね、うん、面白い」
「・・・何スか、そりゃ。で?二人、知り合いなんですか」
「子供の頃、少々木の葉のアカデミーに世話になった事がありましてね。父が里の形態を変えるに至って視野を広げる必然を感じたらしいのですが、さて、その経験が実に成ったかどうか。何せ私は御覧の通りの昼行燈ですからねえ」
淡々と言って波平は一人で将棋の駒を動かした。
窓枠をヒョイと飛び越えて、アスマがその傍らに立つ。
「サボりの名手だったな。いつの間にかいなくなるのが巧くて、先生たちに手を焼かせてた。割りに成績は悪くなくて、話せばこの調子だろ。面白いヤツだと思ってたが、磯の里の跡取り息子とは知らなかったぜ」
「そういえばお前も火影の息子だったな。相変わらずのどら息子と見受けるが、いい教え子に恵まれてなかなかの教師ぶり。先代もお喜びだろう」
「あの世でしかめ面してんじゃねえかな。まだまだだこの馬鹿息子ってよ」
「先代はお気の毒な事だった」
「何、火影の仕事を全うして逝ったんだ。サバサバしたモンだろう」
アスマは着けた煙草の煙に目をすがめて、窓の外を眺めた。そこに彼の父の姿がある。
「で、だ、シカマル。何でお前を呼び出したかというとな」
「何だ、ちゃんと理由があったんスか。てっきり年寄りの慰みに呼ばれたのかと思いましたよ」
シカマルは口をひん曲げて頭を掻いた。
「八割がたそれに間違いないね。しかし用も有るには有る」