第10章 狙い狙われ
「ぶきしゅん・・ッ」
「・・・風邪ッスか?」
目の前で大きくくしゃみをした男に、シカマルは身を引いた。
「失敬。・・・いや、夏風邪は馬鹿がひくものですからね。風邪ではない事にしておこうかな。ふむ。君も呼び出しをかけてきた相手が馬鹿とあってはいきなり気が滅入るでしょう」
"メ・・・メンドくせェ・・・"
茫洋とした表情を崩さず、緊張感に欠けて見えるこの男は、これで磯影だという。
"大体あれが里って言えるのか?土地もねえし、里人も百人そこそこ、動き回って定住もしねえ。そもそも磯の里なんて、あんのも知らなかったっつうの。そんな里に影なんか要んのかよ・・・?"
「因みにね、五代目からどう聞いてるのか知らないけど、私は磯影ではないから。そんな変なモノを見るような目で見ないで下さい。怖いですねえ」
呑気に言いながら、男、浮輪波平は、ごそごそと卓の下から将棋盤を持ち出した。
「君、強いんだってねえ。一つお相手願いたいんだけどいかがかな?」
「・・・将棋、やるんスか?」
「私はやりたいが、君はどうでしょうね。気が乗らないようなら、お帰りはあちら」
パチパチと駒を列べながら、波平は顔を上げずにドアの方を指差した。
"・・・変なヤツ・・"
思いながら、シカマルは波平の向かいに腰を下ろした。
「客分というのは至れり尽くせりで楽だけれど、いかんせん退屈でね。まあへっぽこではあるが一つ揉んで貰おうかと思ったわけですよ」
最後の王将をカチンと配置し、波平はシカマルが駒を並べるのを待った。
シカマルはコツコツと歩兵を置きながら、チラリと波平を見た。
「俺だってそんな強ぇ訳じゃないスよ」
「いやいや、君は相当に頭がいいそうですね。意表をついた手をよく打つと聞いた」
窓の外に視線をさ迷わせて、波平はあまり興味もなさそうに聞いて来た。
「別に普通スよ」
「ふうん」
"興味ねえなら聞くなッつうの"
「で、単刀直入に言って、どれくらい普通なの?」
「は?」
シカマルは予期せぬ返しにちょっと目を見張った。
波平は部屋の本棚を眺めやりながら、特に答えを待つ風でもない。
「手、止まってますよ。やっぱり止めときますか?」
ムカ
「止めてもいいスよ、俺は別に」
「そう?止めますか。残念ですね」
波平はまたさして残念でもなさそうに言い流す。シカマルは呆れた。