第9章 火影 磯影 木偶の坊
「止せ、鬼鮫」
イタチの制止も聞こえぬふりで、鬼鮫は深水から目を離さない。
「あなたが私をどう誤解しているのかは知りませんが、私はこういう人間ですよ。こう見えて割りに白黒はハッキリつけたい質でしてね。まあ、言い換えると目的の為には手段を選ばないというやり方も嫌いではないのですよ」
「解せない。あなたも牡蠣殻を利用しようというのか」
深水が恐ろしく険しい表情を浮かべた。一年前に見せた、あの顔だ。
「私は長年様々な事を犠牲にしながらこの牡蠣殻の世話を続けてきた。細心の注意を払ってこれが出来うる限り健やかに年経るよう努めて来たのだ。私の努めも牡蠣殻の体も、貴様らの様な得手勝手な輩に踏みにじられる為に在るのではない。増して今が今、不逞の輩に私の道筋を乱す事など、断じてさせん」
袖口に手を潜らせて鮫肌にも似た数多の牙を持つ奇妙なクナイを構え、深水はイタチと鬼鮫をぬめつけた。
異常に低い構えが深水の鬼気迫る顔と合間って、異様な空気を醸す。立ち上る湯気のようなねっとりとしたチャクラが、ゆっくりと拡がりだした。絡み付くような重いチャクラだ。
鬼鮫は鮫肌を肩に担ぎ上げて深水を見下ろした。
「面白い。お手並み拝見といきましょうか、先生」
鮫肌を持ち替えて鬼鮫は笑った。深水のクナイを握る手がピクリと動いた。
「鬼鮫、止めろ・・・ッ」
イタチの声が遠い。
鬼鮫は鮫肌を振り上げた。
「貴方うちの師弟に何か恨みでもあるんですか、全く」
かすれ声がして、フと鬼鮫は鮫肌を下ろした。
「先生も物騒なモノはしまって下さい。杏可也さんに怒られますよ」
「磯辺・・・・気付いたか・・」
深水の呆けた声が間抜けて響く。
「はい、気づきましたよ。しかし流石に頭に来ますよ、干柿さん。貴方一体何なんです・・・っと、わ・・・・」
振り向きざまに鬼鮫に胸ぐらを掴みあげられ、牡蠣殻はたたらを踏んだ。
「またですか?やめて下さいよ!」
襟を掴んで顔を引き寄せ、鬼鮫は間近に牡蠣殻の目を見た。扁桃型の切れ上がった目が、鬼鮫の目を見返して来る。
「・・・久し振りですね、牡蠣殻さん」
「・・・何なんです、この挨拶は?」
「斬新でしょう」
「そこ、斬新さ要るとこですか?どこの芸術家ですよ、全く。挙げ句に爆発でもするんですか?離れてやって下さいよ」
「ふ。そういうのが一人ここにいますよ。後で紹介します」