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連れ立って歩くー干柿鬼鮫ー

第9章 火影 磯影 木偶の坊


「わかりましたよ。あれは牡蠣殻さんの血液だったんですね」
鬼鮫は顎を引いて独りごちた。カブトの奪って行ったあの掛守。
深水はハッとして掛守のあったところをまさぐり、頭を垂れた。
「薬師さんですな?」
「そうですね。えらい勢いで引き千切って行きましたよ」
「これで最後にしようと思っていたのです。音は牡蠣殻の血だけでは飽きたらず、その薬まで欲しがり出した」
「血液をやり取りするよりは薬の方がまだ剣呑じゃないと思いますがねえ・・・」
「あれを造るのには牡蠣殻の血液が要るのですよ」
「・・・それは穏やかじゃないですねえ」
鬼鮫は呟いて顎を撫でた。
「大体牡蠣殻さんの血にどういう使い途があるのです?」
深水と、恐らくは先に話を聞いたのであろうイタチが、寝台の牡蠣殻に目をやった。
「この人の血は、他人の血に混ざるとこの人と同じ症状を催させるそうだ」
「伝染るのですよ。血液と血液の間のみで起こる事ですが、一度体内に入ると血液が循環する約四ヶ月の間、出血の止まらない体になる」
「成る程、大蛇丸が喜びそうな附録ですねえ」
鬼鮫は冷めて渋くなったお茶を呑み下した。
「大体の話はわかりましたよ。あなた、一応出来の悪い教え子を守ろうとした訳だ。まあ独りよがりの尻拭いと言えばそれまでですがね。結果音を怒らせて、不穏な事になってしまったと」
「左様・・・」
「正直同情出来ませんがね。一つ条件を呑むなら引き受けないでもありませんよ」
イタチがキツい視線を向けてくるのを無視して、鬼鮫は口角を上げた。
「牡蠣殻磯辺について書き記した資料があるでしょう?あなたのような人が記録を残さぬ訳がない。・・・それを私に渡しなさい」
深水は瞬きして鬼鮫を見返した。
「何の為にです?何故あなたがそんなものを欲しがる?」
「今話しているのはあなたじゃありません。私ですよ」
鬼鮫は素っ気なく言って、深水の目を覗き込んだ。
「返答次第ではあなたを殺すのは音ではなく私になるかも知れませんねえ。どうします?」
「干柿さん何を・・・」
「言ったでしょう。次に依頼するときは心しろと。私に一人で国を傾ける力があるかどうかは兎も角・・・・」
卓の上で長い指がトントンと音をたてた。深水は鬼鮫の目に捕らえられて、顔を俯けることも出来ないでいる。
「あなたを殺すくらいは造作もないことです」
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