第9章 火影 磯影 木偶の坊
「では改めて聞かせていただきましょうか。一体どうしたんです」
"何だって私が人のフォローなんかやらされなきゃいけないんだか・・・。もう少し吊っておけば良かったですよ、あのガサツ者・・・"
内心苛立ちながら話を促す。
深水は姿勢を改めて鬼鮫とイタチを交互に見た。
「護衛をお願い致したい」
「は?」
鬼鮫は口に運びかけた湯呑みを卓に戻し、イタチも顔を上げた。
深水は真顔で二人を見比べ、頭を下げた。
「私の不徳の致すところで、正直この身が危ないのです。卑小な我が身ではありますが、我妻杏可也の為にも今私がどうにかなる訳にはいかない。どうか、どうかお頼申します。これ、この通り・・・」
らしくもない殊勝な様子でもう一度深々と頭を下げる。鬼鮫はむしろ呆れた顔で深水をしげしげと眺めた。
「どういう事です」
「音の輩に狙われております」
「あなたが?」
「左様、私が」
「経緯を話す必要がある」
イタチがじっと深水を見て、静かに促した。深水はチラリと険しい顔になりかけたが、膝の上に置いた拳に力を入れて自制した。
"ほう・・・どうやらこの人、イタチさんがあまりお好きではないようですねえ・・・"
鬼鮫が面白そうに見ているのにも頓着なく、深水はぽつぽつと話し出した。
「・・・先程イタチさんに触りはお話致しましたが、一年前、あなた方に牡蠣殻の護衛を依頼した件です。あのとき私達磯は、庇護して貰う代わりに牡蠣殻の血を音の里に分ける約定を交わしました」
「血を分ける?」
「文字通りですよ。牡蠣殻は音の者と接触し、自らの血液を検体として与える手筈になっていたのです」
「・・・牡蠣殻さんは知ってたんですか」
「病の治療に役立てるのだと納得しておりました。私も同様の事」
「おめでたい人たちだ」
鬼鮫は椅子を退いて足と腕を組んだ。深水は秀でた額を拭って先を続ける。
「如何様にも。里の上層がどうであったかは計りかねますが、しかし私達は真実そう信じておりました」
「だから取り引きが反古になってからわざわざ個人的に接触をとったと」
「牡蠣殻の不便な血が人の役に立つのであれば、あれも嬉しいだろうと思いました。迷惑をかけるばかりの体ではないと」
「知ってるんですか、あの人は」
「里の誰も預かり知らぬ事。全て私の胸先三寸」
深水の顔色が悪い。