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連れ立って歩くー干柿鬼鮫ー

第9章 火影 磯影 木偶の坊


「アンタの親爺さんが里の土地を捨ててかれこれ二十年。そろそろ腰を落ち着けて地に足を着ける気はないか?流浪の暮らしはいずれ小里である磯を滅ぼしかねない。その気があるなら木の葉も協力を惜しまないぞ」
五代目火影綱手の言葉に波平は肩をすくめた。
「二十年も経ったと言うのが曲者です。地に足を着けぬ暮らししか知らない若者が司政に携わる年頃になり、以前を知る者も今の暮らしに慣れきってしまっている。波風のない航行に大きな舵を切るのは思いの外難しいものでしてね。それが性に合っているとなれば尚更の事」
「四代目は先代の長老連と折り合いが悪いと聞く。連中を慮って真意を隠していないか?それとも、何かから逃げ隠れるように暮らすのが、本当に磯の性なのか?」
「聞きたかった事というのはそれですか?であれば、答えは至極簡単、是です。失礼」
「待て、肝心なのはこれからだ」
立ち上がった波平を綱手が両手を上げて抑える。波平は改めて椅子に座り直すと、それが常の半眼で綱手を見返した。
「単刀直入にお願いしますよ」
「それをお前が言うか、全く磯の連中は食えない話し方をする・・・」
「初代からの申し送りですからね。先祖を敬う事にかけては磯も捨てたものではありません」
「その先祖の眠る土地を捨ててもか」
「心は常に共にあります」
「おい、棒読み棒読み」
「ではこれで・・・」
「いやいや話は終わっていない」
「単刀直入にとお願いしたのに、五代目、回りくどいですよ」
「フン。交渉相手に確約を与えない為の磯独特の話術、なかなか効果的だが、それも相手の耳に届かなければ意味がない」
綱手の言葉を受けた波平は、無言で見返して先を促した。
綱手は手元の紙束を波平の前に放った。
「最近各国の国境付近でおかしな死に方をする山賊が増えている。害意あって旅人を脅かす輩の事、初めはさして問題にもならず放置されていたが、尋常でない死体とその数に看過するのも難しくなってな」
資料に目を通す波平から目を離さず、綱手は手元のお茶をひと啜りした。波平は茫洋とした表情をピクリとも変えず、紙を繰っている。
「皆失血死していますね」
「連中の身上を考えれば不自然な事ではないな。しかし遺体を改めてみれば、些細な擦り傷か切り傷、若しくはアザ、骨折、何れも失血死につながる程の外傷を負っていない。これをどうみる」
「失血死でしょうね」

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