第8章 面倒な師と手のかかる弟
「あれが医者か。世も末だな。診察中に患者が腐れるぞ」
「ゲハハハ、誤診や無駄口で殺した患者ァ、一人ふたりじゃねえだろォなァ!頼もしいじゃねえの」
「オメエが医者呼べったらアイツだな。共倒れしろや・・・」
「・・・皆さん本当に暇なんですねえ・・」
呆れて呟きながら、鬼鮫は牡蠣殻に目を落とした。
首元が酷いアザになっている。腫れてはいないが、これも薬を呑まなければとまらないのだろうか。アザは血管が破れて出血する事によって生じる体内の擦り傷のようなものだ。
"多分駄目でしょうね、呑まずにいては"
その内広範囲が腫れ上がり出すだろう。それから?皮膚を破るまで出血し続けるのか、体内で出血したまま、膿んで腐れていくのか、行き場を失った血液が、逃げ場を求めて目鼻や口等から流れ出すのか。
"いずれにせよ、死ぬ"
鬼鮫は牡蠣殻の顔を眺めながら深水の事を考えた。
"どういう人間かわかりませんが、少なくとも私の持ち得ない知識を持っている。吐き出して貰わなければ"
カブトと取り引きをするような剣呑な真似をしているのでは、深水自身いつどうなるか知れない。増して磯が木の葉と接触を持っている今、深水を連れて来たのは賢明だったと言える。
"とは言え、いつまでも足留めして置けるものではないでしょうね。今、暁が木の葉と事を起こすのは時期尚早、下手を打っては元も子もない"
アザの様子を見ようと、牡蠣殻を一度長椅子に戻して襟元に手をかけたところで、角都の声がした。
「・・・おい、さっさと部屋に行け。ここで何をするつもりだ」
「バカ角都、黙ってろよ」
「なあ、面白ェとこだったのによォ」
「見苦しいの間違いだろ。大体魚が魚屋さばいてどうすんだ、あぁ?コントか?笑ってやんねえぞ、クソ詰まんねえ」
「ああ、失礼しました。やけに静かだと思ったら、退屈を紛らわせてしまったようですねえ。今消えますから、存分に退屈して下さい」