第8章 面倒な師と手のかかる弟
鬼鮫は牡蠣殻を持ち上げて、今度はさっさと広間を出た。行き先はイタチの部屋だ。
気になる事があると言うイタチを慮ったが、まだ牡蠣殻を死なせるつもりはない。深水に手当てをさせなければ。
目覚めたら、言いたい事が山程ある。
潮がひくように次々と静かに姿を消す磯の里人たちに、いのは圧倒された。
誰も騒がない。子供たちでさえ、大人に倣って消えて行く。瞬身の術?こんなに静かに?隠れ身?ならば見事過ぎる。幽霊が、人目についた瞬間に消えていくような、そもそも在る筈ではなかった薄いものが元通り無くなったような。
「・・・シカマル、何か怖いよ・・」
「・・・ああ・・・」
いのが袖を引く手を思わず握りしめ、シカマルは眉をひそめた。
「・・・見ちゃいけねえモン見てる気になるな・・妙な里だ・・・」
「この人たち、どこへ行くの?」
シカマルは、黒装束の束ね髪をぶら下げた男が繰り出した攻撃で、あちこち火傷だらけの真っ黒になっているいのを申し訳なさそうに見遣った。
「傷、痛くねえか?嫁入り前の女だってのに、そんなんなっちまって、悪かったな」
「あのさあ・・・同じ任務についてんだから、そんな言い方止めてよ。嫁入り前とかさあ、反って縁遠くなるってば。シカマルは頭良いかも知れないけど、完ッ全にフェミニストはき違えてるから」
「女には優し・・・」
「はいはい、でも違うから、ソレ優しくないから。で?どこ行くのよ、この人たち。探さなきゃないの?」
「探す必要はねえ。木の葉の里に行く」
シカマルの答えに、いのは目を見開いた。
「え?何で?」
「何でも何も、何かあったらそういう話になってる。元々木の葉に住まわせたかったのに、磯の方が断ったもんだから護衛やら連絡員やらメンドくせえ事になってんだよ。百人やそこら増えたって大した事ねえし、大人しく木の葉にいてくれた方が手間かかんねんだけどな」
「え、ちょっとホントに?やだよ、あたし、そんなの」
「あっちも厭だってよ。まあ、この先どうなるかわかんねえけどな。さあ、チョウジ捕まえて帰るぞ。あの様子じゃ、俺たちより先に木の葉に現れるぞ、あの人たちは。事後報告になって叱られるな・・・たく、メンドくせえ・・・」
シカマルはまだ煙臭い辺りの空気を嗅ぐと、険しい表情で溜め息を吐いた。
「どっから報告したもんか、ホント頭痛えよ・・・」