第8章 面倒な師と手のかかる弟
「左様な女々しい事は、この深水、申し申さぬ。多少腹部に鈍痛を覚えますが、訳あっての所業でございましょう。恨み言は言いますまい。二度も打たれましたがお気になさらず。気になさる事はございませぬ。この痛みからして存外な打ち身になっている事が予測されますが、何、大したことはございませぬ。誰に見せるものでなし、ああ、しかし干柿さん、後でご覧になられますか?ご自分の拳の跡の事、一見の興を唆られるとおっしゃるのなら、お見せするのも吝かではありませんが」
いつの間にか深水が鬼鮫とイタチの間に座り込み、話に語らっている。
鬼鮫は眉間を揉んで溜め息を吐いた。デイダラが人の悪い顔でにやにやしながら鬼鮫と深水を見比べた。
「何か結構恨まれてるみたいだぞ、うん?」
「そう言われても困りますねえ。あの状況じゃ長い話を聞いてられませんでしたから」
「はて、あの状況とは?乱暴されざろう得ない状況とは?」
「うっぜ・・・」
「私、ウゼではなく深水と申す」
サソリは深水を追い払うように手を振り、うんざりして鬼鮫を見上げた。
「・・・何だこの不良品はよ。おい鬼鮫、これも早くテメエの部屋にしまえよ。メンドくせえ」
「そうですねえ。これ以上話がややこしくなる前に私の部屋に行きましょう、深水さん」
「おや、牡蠣殻」
鬼鮫が抱き上げたところで、深水はやっと牡蠣殻に気付いた。
「何と、他家に上がり込んでのうのうと昼寝とは、何たる恥さらし・・・!」
「昼寝かよ!何か幸せそうなオヤジだなァ?ゲハハ、面白ェ!」
「確かにな。お前を凌ぐ勢いだ」
「はいはい、行きますよ、深水さん。正直邪魔ですがどうぞこちらへ」
「鬼鮫、深水さんは俺が・・・」
イタチが鬼鮫の傍らに立って申し出た。
「お前はその人を部屋に落ち着けてから俺の部屋に来てくれ」
元より大きくはない声を更に心持ち抑えて、
「少し気になる事がある」
「・・・ではよろしくお願いします。深水さん、私は後で行きますから、イタチさんと」
「おお、これはお懐かしい。あのとき生意気を抜かした方ではありませんか!」
深水の言い様に顔色一つ変えず、イタチは彼を伴って広間を出て行った。
「イタチは凄えな。オイラなら一人であんなオヤジ相手にするなんて真っ平だ、うん」
「安心しろ、大方の人間が同感だろうからな」
「けどアレ、医者だろ?看させりゃいいのに」