第8章 面倒な師と手のかかる弟
「俺たちゃ鳩を笑ったんじゃねえって。鳩に謝っとけよ」
「鳩だけ笑ったんじゃねえよな、うん」
「テメエと鳩の絡みに受けたんだよ、間抜け」
「万に一つの邂逅だな。海のヤクザと里の平和の使者・・・」
口々に言って、全員が何となく答えを求めるようにイタチを見た。鬼鮫までもが暴言に言い返すのを控えて見ている。イタチはちょっと厭な顔をしたが、
「土鳩を伝書に使うなんて、変わったやり方だ・・・」
「?変わってる?どこが変わってる?」
「・・・種類が」
「土鳩、即ち川原鳩は鳩の中でも最も個体数が多い帰巣本能に優れた伝書に向く賢い種だ。そもそも鳩という鳥種自体画の良し悪し、音楽の聞き分けすらする賢さを持っている。余程野性味がない限り巧く仕込めばどの鳩も伝書に向かない事はない。軍用の伝書も土鳩が多い。うちはとて伝書を用いていただろう?どの鳩の伝書がスタンダードだと思っているんだ?」
流石の長老の問いに、イタチは不思議そうに答えた。
「うちははカラス鳩を使っていた。皆そうではないのか」
「いやいやいや、それはまた。カラス鳩は準絶滅危惧種。大それた事をなさりますな」
「伝書の仕事は事故が付き物だ。過去にも何千何万の伝書が一時に犠牲になる事故が何度となく起こっている」
「左様、磁気嵐の最中を飛ぶと、方向感覚の喪失に依り、帰巣すら困難になりますな。大体の事故は磁気嵐の最中に生じております。しかし準絶滅危惧種をわざわざ伝書に用いられるとは、無謀というか豪気というか・・・未必の根絶やしの行いと言って過言ではありますまいな」
「未必の根絶やしにカラス鳩か。うちはらしいが、何も絶滅危惧種を伝書に扱き使わなくとも良いだろうに」
「土鳩は外来種と在来種が掛け合って生じた生命力の強い鳩種。その数の多さから集団活動を良くする協調性に長けてもいます。伝書には大層よく向くのですよ。わざわざカラス鳩なぞお使いにならず、次回よりは土鳩をお薦めしますな。未必とは言え根絶やしに一役買う様な愚挙はお控えになられたが吉・・・」
「・・・おい、鬼鮫、何だコイツは」
「一頻り意気投合しておいてそれはないでしょう、角都・・・で、具合はいかがですか、深水さん。その分だと何ら問題なさそうですが、一応聞いておきますよ。未必の看護放棄なぞと言われたくありませんからね」