第7章 磯から暁へ
サソリは赤い顔で顎を上げ、どこから手を出してやろうかという目で三人を見渡したが、フと気が付いて視線を巡らせた。
牡蠣殻と名乗った女が、窓辺の小さな卓で頬杖をついて本を読んでいる。断りをいれた通り、煙草を燻らせながらこちらには見向きもしていない。
「おいそこの魚屋ァ!」
声をかけてズカズカと近寄るも、一向に顔を上げない。
「おい!」
間近で改めて声をかけると、やっと本から目を上げた。
訝しげにサソリを見、その顔がどう見ても怒っているのに気が付くと、煙草の火を消して椅子ごと体を退いた。
「な、何で急に怒ってるんですか?」
「テメエ、あれ片付けろ!そもそもテメエが本の話なんかすっから・・・クソ、腹立ってしょうがねえ!」
「はい?あの本はあの、角都さんの本ですよ?私が勝手に片付けていいものかどうか・・・大体私、本読んでたんで何の話もしてませんよ」
「切欠を作ったっつってんだよ。何だこの女、バカなのか?」
「切欠・・・ええ、確かに皆さんから強要された自己紹介の際に趣味は読書とは言いましたが、それは取り立てて楽しい話題提供のつもりじゃ・・・・まあ皆さん楽しんでらっしゃる様で何よりです。結果オーライってヤツで・・ぶっ」
牡蠣殻はサソリに頭を叩かれて前のめりになった。
「話を聞け、魚屋」
「・・・・何ですか、さっきもそんなよう
な事仰ってましたけど、私の事ですか、魚屋って」
「魚専だろが、テメエは」
「どこで誤解が生じたんでしょうねえ・・・。私の好物は山菜と海草と豚足です」
「聞いてねえしよ!しかも何だその変なラインナップは!」
「何でそんなに怒ってるんです・・・もしかして貴方、綺麗なお顔してまさかの干柿さんの畑違いのご兄弟か何か・・・?」
「イタチイィ、こいつ鬼鮫の部屋にしまっとけえェッ!」
海老のようになって笑い転げる飛段と額を押さえてこちらも完全に笑っている角都を睨み付けながら、サソリはイタチに向けて鬼鮫の部屋の方を指し示した。