第6章 内股膏薬
いつ現れたのか、深水が傍らで中腰になり、鬼鮫と一緒になって木の葉の護衛の方を伺っている。
「鬼鮫。誰だ、そのおっさん。何言いてえんだ?うん?あのつり目が何を思わせるって?例の女か?あー、・・・オイラの好みじゃねえなぁ・・・うん?大体男だろ、あれ?・・・え・・ちょ、まさか鬼鮫、え、何かすげえヤなんだけど?」
「・・・独りで暴走してないで、ちょっと静かになさい」
頭が痛くなって来た。自分が忍耐に欠けるとは思わないが、色々手に余る。
状況に押されて牡蠣殻のイメージが堰を切って溢れ出し、鬼鮫は暫し黙り込んだ。
眼鏡の下のつり上がった扁桃型の目、思いの外薄く酷薄そうな唇、小さな手、眉間に寄せる皺、結いまとめられて長さもわからない黒い髪、薄い身体、止まらない血、低い声、言い回し、煙草の匂い、本、周りを見ない。
私に気付かない。
腹が立つ。
痛めつけてやりたい。
"・・・おっと・・。危ない危ない"
鬼鮫は口角を上げて目を細めた。
"妙な事を吹き込まれたせいですかね・・・"
だからといって僅かでも面影のある相手に殺意が湧く訳でもなく、鬼鮫は考え込む。
"まあ少なくとも顔にイラつくという訳ではないと・・・本当に何なんでしょうね、あの牡蠣殻という女は・・・"
「如何なされましたかな?」
深水の問いに苦笑する。
「いやあなた、なかなかのものですよ。こんな近くにいて話しかけられるまで気づかせないなんて、驚きました。しかし危ないですよ、私を驚かせるのは。良かったですねえ、命があって」
「む。然もありなん。しかしこれは磯の里人には何と言うことのない日々の所作。在って無しが如くが我々の身上です故」
「何だ、コイツ」
デイダラは呆気に取られて深水を眺め、目を瞬かせた。
「何でフツーにしゃべんねえの?メンドくせぇな!うん?貴族か何かか?こんなとこに?」
「貴族。これは異なことを。私は磯の里における医師であり、教師である深水と申します。そこのお若い方がどういった係累にあるか存じませんが、その外套から察するに暁の方と見受ける。見知りおき願います」