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連れ立って歩くー干柿鬼鮫ー

第1章 その女



鬼鮫とイタチの部屋は二階の階段近くに向かい合いでとられ、イタチの部屋は両隣が空いていたが、鬼鮫の部屋は左隣に客が入っている様子だった。
嫌な予感がした。ガラガラの宿で何故選りに選って隣が埋まっているのか。気に触る。
「替わってもいいぞ。偽名でとった部屋に拘る事はない」
空気を察したイタチが、心なし面白がっているような様子で言ってきた。
鬼鮫は鼻で笑って、部屋の引き戸を開いた。
「まさか。何で替わる必要があります?下らない」
「そうか」
イタチは目を細めて、彼には珍しく微かに笑ったような顔をした。
「今日はゆっくり休め」
言い置いて自分の部屋に入る。
それを見届けてから、鬼鮫も部屋に入り・・・かけた。入りかけたが、フと気になって階段の方へ視線を巡らせた。誰か上がって来る。
「・・・・」
髷を結った頭が見えた。
鬼鮫は素早く部屋に入ると速やかに引き戸を閉めて眉間に深い皺を寄せた。
「ちょっと待って下さいよ・・・」
足音が近づいて来る。
「冗談でしょう・・・」
左隣の客がガタガタと引き戸を開け閉めして部屋に収まるに至って、鬼鮫は掌で額を覆った。
何をしているのか知らないが、これがまたゴトゴトガチャガチャと早速うるさい。時折「イタッ」だの、「アッ」だの、いかにも駄目そうな声が織り込まれて来る。明らかに隣に間抜けがいる。
鬼鮫は背中の鮫肌に手を伸ばしかけて思い留まった。
ここでこの薄い壁をぶち破って隣室の間抜けの髷を掴んで床に叩きつけ、立ち上がったところでー立ち上がれたらの話だかー水牢に捕まえていたぶった挙げ句、大きく振りかぶって鮫肌で削ってやれれば。怯えた目で鬼鮫を見ざるを得なくしてやれれば。
さぞ胸の広がる思いがするだろうが・・・。
「成る程」
鬼鮫は苦々しげに喧しい隣室を隔てる薄い
壁を見遣り、幸いにも右側の壁に寄り添った寝台にどさりと腰を下ろした。
"人はこういうとき、頭を掻きむしりたくなるんですねえ・・・やりゃしませんがね"
背中の鮫肌を下ろして、顔を拭う。
"なるべく顔を合わせないようにしないと・・・"
癇に障る。何故かわからないのがまた腹立たしい。
"何で私がこんな気を使わなきゃならないんですかね・・・"
そう考えるとますます腹が立って来る。
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