第1章 その女
「知り合いか?」
鬼鮫の不可解な様子にイタチはスイと女を見返って眉をひそめた。
鬼鮫は先に立って歩きながら肩をすくめる。
「さあ、違うと思いますがね・・・」
知り合いならとっくに危害を加えている。有り体に言えば削り捨てているだろう。
何だ、この感じは。何にイライラする?煙草など吸って、周りを見もしない様子が気に入らない?
まさか。そんなの事は本人の自由だ。周りが、まして自分が気にする価値もない。
なのに何だ、この息の根を止めてやりたいという衝動は。
露ほども面識のない、まるで遠い赤の他人だというのに。
不可解だ。
鬼鮫は立ち止まってイタチを振り返った。
「ところで部屋はどこですかね?」
「・・・・どこへいく気だったんだ」
「一応部屋に行くつもりだったんですがね。知らない場所には行けませんでしたねえ・・・」
イタチは何か言いかけた口を閉じて歩き出した。
「少し落ち着け、鬼鮫」
「落ち着いてますよ」
「そうは見えないから言っているんだ」
「止めて下さいよ。あまり言うといくらイタチさんでも、怒りますよ」
自覚しているのにしつこく追及されるのは腹が立つ。
イタチは口を噤んだ。
ここで仲間割れをするのは愚の骨頂というものだ。鬼鮫は馬鹿な男ではない。
「こっちだ・・・」