第4章 文通
デイダラは両手を振って、一歩下がった。
「するする、忠告するから、な、うん。殴り殺しなんて、そんなの楽しみにすんの止めろ。ネチネチしつこく殴られるなんて、オイラの美意識に反する・・・・何か用・・・、そうだ用事を思い出した、うん。オイラはもう行くぞ」
いつ見ても存在意義が不可解な、頭上の高くに結わえあげられた束ね髪を揺らして、デイダラは足早に鬼鮫から離れた。
「全く・・・」
それを見送って鬼鮫は苦々しい顔をした。
鬼鮫が誰に手紙を書いているか、イタチ以外のメンバーは知らない。隠すつもりはないがわざわざ知らせるつもりもなく、まして面白がって嗅ぎまわるような連中を訳もなく喜ばせる気は一切ない。
"大体あの牡蠣殻さんが悪い。手紙なんぞよこすから我ながら律儀に返事を書くうち、文通しているような格好になってしまったじゃないですか。その上筆無精で常に住所不定ですよ。呆れてものも言えない・・・"
ははぁ、だから手紙なんですね。
牡蠣殻の減らず口ならこう言うだろう。
鬼鮫は眉をひそめて部屋に入った。
勿論トラップはなしだ。死に至るトラップなど自室に仕掛けたら、鬼鮫自身がおちおち生きていられない。滞在時間が一番長い自分を危険に晒してどうする。人の手紙を漁りたがるような連中から離れてリラックス出来る唯一の場所で、何が悲しくてわざわざ自分を追い詰めなければならないのか。馬鹿馬鹿しい。
ため息をついて鮫肌を下ろしたところでフと鳩と目が合った。・・・窓に鳩がいる。
「・・・・また来たんですか、ご苦労様ですねえ・・・あなた、依頼主より格段に働き者で将来有望ですよ」
磯の伝書鳩だ。
この彼だか彼女だかわからない律義者が初めて現れたときは驚いた。向かいのイタチがお茶を噴いていたのも忘れられない。
「・・・伝書鳩・・」
「ああ、牡蠣殻さんですねえ・・・何の真似ですかね、これは・・・」
鳩の足から紙縒の入った筒を外す鬼鮫をよそに、イタチは震えていた。
「・・・土鳩・・・・・」
呟くと、腹と口を押さえて部屋を出て行った。
今思えば、土鳩の伝書鳩が彼なりのツボに入って一人で笑っていたのだろう。何が可笑しいのか鬼鮫にはサッパリわからないが、イタチも箸が転がってもの年頃という事なのかも知れない。