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連れ立って歩くー干柿鬼鮫ー

第3章 恩師


「なら稼ぎなさい。稼いで私に会いに来なさい。まあ間抜けなあなたの事ですから、そうそう稼ぐ事は出来ないでしょうがね。期待しないで待ってますよ」
「・・・あのねえ、干柿さん・・・」
牡蠣殻は堪り兼ねた様に眼鏡を外してこめかみを揉んだ。
「どこに大金を稼いで迄殺されに行く人がいますか。夢見がちは存外募り行く病ですよ?」
「・・・・・」
「・・・干柿さん?」
「なんです」
「大丈夫ですか?」
「何がです」
「怒りもしないで、ぼんやりしてらっしゃるから・・・ちょっと気味が悪いですよ」
「・・・気味が悪いってよくもそんな事をこの私
に向かって言うものですね・・・あなたの患っている馬鹿や間抜けこそ治らない病でしょう。御愁傷様ですよ」
鬼鮫に皮肉げに見下ろされ、牡蠣殻は苦笑して引き戸に手をかけた。
「干柿さんは、ややこしい事を言わずにいられない人なんですねえ」
またも失言して真顔になり、
「付き合い辛いというか、厄介というか、扱いづらいというか、面倒くさいというか・・・周りの方も大変でしょうねえ」
「・・・全部同じような意味ですが、並べ立てる必要ありますかね、それ」
「干柿さん、大金を稼げないでも、話したくなったら会いに行きます。何処にいらっしゃるかわかりませんけど」
牡蠣殻は引き戸の向こうに立って笑った。
「もし会いたくなったら遠慮なく来て下さ
い。里の都合で何処にいるかは教えられませ
んけど」
どこまでも適当な事を言って、牡蠣殻は聞かぬ顔でひっそりとやり取りを傍観していたイタチに視線を移した。
「目的や素性は置いておいて、貴方たち、いい人でした。本当に色々ありがとうございました。今度は、心からご健勝を」
引き戸が閉まり、牡蠣殻の姿は消えた。
「・・・・・あっさりしてるな」
何を期待していたのか、イタチが少々拍子抜けしたように笑った。
「いいのか?」
「何がです?」
「愉しそうだったな」
「さあ、苛立ったり腹が立ったりで振り回されて疲れましたよ」
「話し足りないんじゃないのか」
「足りなきゃ足しに行きますよ」
「・・・・道中無事だといいな」
「大丈夫でしょう。あの恩師とやら、とんだ猫被りだ。この分じゃ磯の里も案外したたかかも知れませんよ」

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