第3章 恩師
「かも知れない。あの里はあまり知られていないからな」
「捕り零したかと思って焦りましたよ。全く腹の立つ・・・」
「・・・・何をだ?」
「牡蠣殻さんですよ。あんな何も考えてなさそうな人間でも、謀られたかと思えば怒るんですねえ。驚きましたよ」
「捕り零す?」
「ええ。あの人は私が見付けた獲物ですからね。私のものです」
「人の心は思う通りになるものではないぞ」
「心なんかどうだっていいんです」
鬼鮫は虫を払うような仕草をして、口角を上げた。
「あれの寿命を絶つのは私だと言ってるんですよ」
「・・・お前の得意分野だな」
「ええ、まあ、そうとも言えるかも知れませんね」
「・・・お前らしい」
「ふ。そうですかね。まあイタチさんが言うならそうなんでしょうよ」
「会えればの話だが・・・」
「会えますよ。会いに来るって言ってたでしょう。来なければ私が行くまでです」
鬼鮫は事も無げに言って、肩をすくめた。
「そのうち捕まえて、連れて歩きますよ。気がすむまで。あの人の生殺与奪は私のもので
す・・・・何で笑ってるんですか、イタチさん」
「笑ってない。いや、笑ってるか。すまん」
イタチは咳払いして鬼鮫の肩に手を置いた。
「俺たちも戻るぞ。労せずして大金が転がりこむんだ、角都が喜ぶな」
「どっちだっていいですよ、ヒジキの事なんか」
「・・・本人の前では言うなよ」
「言う用もありゃしませんよ」
鬼鮫は鮫肌を持ち上げて足を踏み出した。
今が今、牡蠣殻もどこかを歩いているだろう。
そのうち連れ立って歩く。必ず。