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連れ立って歩くー干柿鬼鮫ー

第3章 恩師


イタチの椅子の斜め後ろに立ち、鬼鮫は不快な表情を露にした。
牡蠣殻を見ても、考え込んでいる様子の彼女から視線は返って来ない。
また腹が立って来た。
「私はこの牡蠣殻の師です。これを連れ戻しに参りました」
「・・・連れ戻す?」
イタチが切れ長の目を細めて聞き返す。
「左様。この件は無効となりました故、牡蠣殻は一刻も早く里に戻った方が良い。私は医師でもある身、これの体の万一を考え急ぎ負かり参りました」
"面っ倒臭い男ですねえ。簡潔に話せないのは馬鹿の証ですが、ハ、居ますよ、ここに生き証人が"
「・・・無効・・」
「左様、無効です」
物怖じなく言い放つと、深水はイタチと鬼鮫を、殊にその黒地に紅い雲の浮かぶ外套をじっと見詰め、口を引き結んだ。
「どうやらあなた、わかってらっしゃるようですから、回りくどい話抜きで聞きますが」
鬼鮫は深水の視線を正面から受けて、眉間に皺を寄せた。
「護衛の依頼はどうなります?わざわざここまで出張って来て一日無駄にした挙げ句、無効と言われましてもねえ・・・」
「護衛・・・」
牡蠣殻が顔を上げた。イタチと鬼鮫を見、何か言いかけて口を閉ざし、また鬼鮫を見て、スッと表情を消す。蝋燭の芯を捻るように。
その顔を見た鬼鮫は思わず組んでいた腕を解いた。
捕り零した。
「成る程、この方たちが私の見つけるべき相手だったのですね」
牡蠣殻は可笑しくもなさそうに笑った。
「それは気付きませんでした」
「だからお前は駄目なのだ。目配りも気配りもなっていない」
深水が厳しい目で牡蠣殻を見る。牡蠣殻は今度は可笑しそうに笑った。
「男が二人としか聞いてないんですよ?それがまさかこの変わった人たちだとは思いませんよ。黒装束の二人組と言ってくれれば解り易かったでしょうに」
「言い訳はいい。しかもまた傷を負ったりして、少しは体の事も考えろ。長生き出来ないぞ」
ー・・・長生きをするしないより、死ぬときは畳の上で、が重要事項ですかね・・・ー
鬼鮫は深水が手当てした牡蠣殻の右腕に目を走らせた。
「兎に角、早くこれを連れて帰らない事には私も落ち着きません。皆も報告を待っていますし、これで失礼致します」
頭を下げた深水に、イタチが薄く笑った。
「報告する事など何もないのでは?この人はただここに来て、ただ帰って行くだけだ」
「ほう」
深水の目が底光りした。
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