• テキストサイズ

連れ立って歩くー干柿鬼鮫ー

第26章 シカマル受難


牡蠣殻という女はどことなく情緒面の欠落を感じさせる。
少なくとも鬼鮫の知る牡蠣殻はそうだ。真面目に話していてもすぐ何でも茶化してしまうせいか、喜怒哀楽さえ表層的に感じられることが多い。
なまじ口が達者な為、言葉が先走って感情が何処かに置き去りになってしまったような、妙に宙ぶらりんなところがある。そのせいか何かにつけて危なっかしい。
周りに興味を持たず、何事も他人事のような自分に気付きもせず、こちらを見もしなかった牡蠣殻が恋しいと気持ちを寄り添わせて来たとき、鬼鮫は総毛立つような思いがした。
今隣を歩く牡蠣殻を横目で見ても、身の内が疼くのを感じる。思えばこうして並んで歩くのも初めての事だ。
牡蠣殻は歩き方にも色気がない。大股で踵から踏み込むように歩く。あちこちよそ見しながらどんどん大股で行くので、よくぶつかり、よくつまづく。ここでも危なっかしい。いっそ手をつなぐか、足をもぐかしてやりたくなる。
「キョロキョロしてると危ないですよ」
「良いですねえ。ここは住んでる人が明るい。いいとこなんでしょうね。良かった良かった」
「本当に良いところかどうかなんて、住んでみなきゃわかりませんよ。よそ見をしない」
蹴つまづいた牡蠣殻の腕をとって、鬼鮫は辺りを見回した。
人の流れの中に、大柄な二人連れが浮いている。
鬼鮫は溜め息を吐いた。
「どうしました?」
訝しげに見上げる牡蠣殻をどこかに仕舞うか殺したくなる。
「角都と飛段ですよ。あなた、飛段と報酬の話はしましたか?」
「しましたよ。私の血で間に合ったと思いましたが」
「了承したんですか?悪用されたらどうするんです?」
「するような人達ですか?」
「・・・金の亡者と馬鹿とだけ言っておきましょう。仕方ない。来なさい」
鬼鮫は牡蠣殻を伴って角都と飛段の方へ足を踏み出した。
「お、色男。何だ、ウマイことやってんじゃねえか?」
詰まらなそうに懐手で歩いていた飛段が、まず二人に気付いた。にやにやと人の悪い笑みを顔に浮かべ、
「どっかシケ込むのかよ?真っ昼間からホドホドにしとけよォ?ダハハ」
「貰うものを貰いに来た。磯はいつ動くかわからんからな。移動に乗じてうやむやにされては困る。牡蠣殻、献血の時間だ」
下品に笑う飛段を尻目に、角都は顎をしゃくって見せた。今出た宿に戻れという事らしい。
/ 249ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp