第26章 シカマル受難
「揃いも揃って好き勝手言ってんじゃねえぞ。大体オレみたいな若輩者の相談役なんか一蹴されるのがオチだ」
シカマルはアスマらを見回して渋い顔をした。しかし波平は首を振る。
「君は里中の磯人が失せるところを見ていますね。大勢の人間が一時に失せるのを磯では潮が引くと言いますが、大抵の里外人はその様を見ると気味悪がってしまう。見慣れぬ目には怖いもののように映るようですね、私たちの失せ方は」
「・・・潮が引くってのか、あれは・・・」
シカマルは、いのと見たあの静かで異様な光景を思い出した。確かにあれは、見てはいけないものを見てしまったようで怖かった。
「しかし君は磯人は妖かしや化け物ではないと言ってくれましたね。それらはそう思う者の頭の中にいるものだとも言った。敏い。更に君は年長者にも容赦がない。かと言って相手を立てる気遣いに欠ける訳ではない。今後統括を務めるアスマとも気心が知れている。考える程適任ですよ」
「やれよ、バンビ」
それまで話には興味なさげに食べる事に専念していた藻裾が不意に口を挟んだ。
「アンタ、そういうの向いてるんじゃねえかなァ。その賢い頭を役に立つことに使ったら?面倒くせェって出し惜しみしねえでよ。そんなんしてたら波平様みたく昼行燈になっちまうよ?使えるもんは使っとけ」
「ほら、向いてるってヨ?」
カカシが面白そうに尻馬に乗る。
「使えるものは使っとけって。いいコト言うね。そこのちっちゃい彼女」
「誰がちっちゃい彼女だ。生まれてこの方一回も寝たことねえみてぇな寝惚けた目ェしやがって、誰だか知らねえけど帰って寝ろ。アタシの肉は一片足りとも分けたらねえからな」
「・・・・面白いねえ、キミ。何、このコ?波平さんとこの?」
「磯で放し飼いしてる狂犬病の生物兵器スよ」
シカマルはまだ食べている藻裾をうんざりした目で見、溜め息を吐いた。
「大体牡蠣殻さんはどうなってんだ?あの人にやらせろよ。あれでいいだろ」
「人の補佐をあれ呼ばわりって君もなかなかだね、奈良くん・・・」
「牡蠣殻さんは行っちゃったんでしょ?あの魚のアニさんのとこにさ」
食べる気もない獅子唐を鉄板にのせて、藻裾がポツンと言った。
「波平様を捨てて魚介類に走っちまったんだ、牡蠣殻さんは」
「おいこら藻裾」
「昼行燈や底の抜けたザルよか鮫の方がいいもんな。食えるし」
「不味いですよ、あれは」