第25章 犬も喰わない・・・・
「成り行きで手に入ったものなんですがね。差し上げますよ。色々と意味があるようで、あなたに合うと思いますよ」
「くれるんですか?おお?有り難うございます。しかし意味があるって、どんな意味です?」
「植物がモチーフになっているんですよ。仮にも本草の里の者ならば、自分で知りなさい。・・・フ・・・」
「・・・何か怖くなりました。外していいですか」
「それは私しか外してはいけないものですから駄目です」
「うわぁ・・・凄いオプション付いてきたよ・・・・しかしそういう事ならせめてつける前に何かしら言って下さいよ・・・鎖が短くてモチーフが見えないです。外せないんじゃ厭ですねえ、これ・・・」
「安心しなさい。私が外せばいいだけの話です」
「じゃ外して下さい」
「駄目です」
「ほらな」
「・・・何です、ほらなっていうのは」
「・・・いいえ別に・・・」
いかにも一言ありそうな牡蠣殻に、鬼鮫はうっすら笑った。
「勝手に外してごらんなさい。何が起こるか見物ですよ?」
「出たよ」
「・・・出たよとはなんです。御守りだと思って付けていなさい。あなた、そういうのお好きなんでしょう?」
「好きでしたっけ?」
「おや、迷信深い人はそういったものを好むと思いましたがね」
「ああ、成る程。私そんなに迷信深かったですかね?でもまあ、どっちみち干柿さんが下さったものですから、大切にしますよ。有り難う。・・・嬉しいです・・・」
短い鎖に通された無骨な指輪に手をかけて、牡蠣殻は本当に嬉しそうに笑った。何の含みも捻りもない笑顔で、鬼鮫は思わず目を反らした。
「・・・逃げるばかりで強くもないのに、何で側から離れたがるんですかね」
「側にいれたら楽しいでしょうが、楽しくて何にも考えなくなりそうですから。貴方が言ってくれたんじゃないですか。人に頼らず自分で立ちなさいと。甘えないで考えてみます。色々と」
指輪を襟の中に託し込んで、牡蠣殻はぼんやりと言った。
「考えているつもりで目を反らしていた事に向き合わねばね。一年前、ああいう形で貴方に会えて良かった。今まで見えずにいたものが少し見えてきたように思います。有り難う」
鬼鮫の大きな手をとって、牡蠣殻はその掌に口を寄せた。乾いた感触が掌に触れて、離れる。
「貴方が何心なくしたこのまじないは、また会えるようにという意味を持つのですよ。知らなかったでしょう?」