第25章 犬も喰わない・・・・
「厭です」
「言い返して来ないので夢でも見てるのかと思いましたよ」
「何で私が痛い目を見て貴方が夢から覚めるんです?夢見てる夢でも見てるんですか。こんな話をしに来たのなら、もう行きますよ私は」
「あなた、聞かれた事に一つも答えていませんよ、牡蠣殻さん?」
ドアから体を起こした鬼鮫が不意に厳しい顔で牡蠣殻を見下ろした。
「磯には独自の話術があるそうですが、あなたや浮輪さんがやけに丁寧に話すのはそうした方がその話術を使い易いからなんじゃないですか?対話する相手に確約を与えない様に煙に巻くのが得意なのですよね、あなたたちは。その為に日頃から慇懃無礼な態度をとっているのでしょう?深水さんや彼の連れ合いもまた然り。藻裾さんは例外でしょうが、独特の話し方で相手を煙に巻くという点に相違はない」
「どうしてそんな事を・・・」
「知っているのかって?調べたからですよ」
鬼鮫は目を細めて牡蠣殻を見やる。
「とは言え、さしたる情報は得られませんでした。流石逃げ隠れに長けた磯と言ったところですねえ。兎角痕跡を遺さない」
「その遺らない痕跡をどうやって調べたんです?」
「私も流れ歩くのが半ば仕事ですからね。そうして歩く先には大概人の欲を満たす場所がある」
「成る程。それは効率的な干柿さんらしい調べ方でしたね。一石二鳥という訳だ」
「・・・何です?」
「何ですって何です?」
「何か言いたい事でも?」
「え?何か言って欲しいのですか?・・・困りましたね・・・」
牡蠣殻は真顔で首を捻った挙げ句、至極真剣に鬼鮫に向き直り、小指を立てた。
「具合は良かったで・・ぶ・・・ッ」
待ち構えていたようなタイミングで、鬼鮫は牡蠣殻をはたいた。
「何を考えてるんですか。その小指を寝かせなさい。へし折りますよ」
「いやしかし他に言い様が・・・チェンジはありで・・・あだででで・・ッ!」
「黙んなさい!何でそんな下世話な事を知ってるんです?全く呆れ果てますね。何なんですか、あなたは!」
牡蠣殻の口元をつねって鬼鮫は首を振った。
「あなたと話していると肝要な話題が遠ざかるばかりですよ。見なさい、結局私は言いたい事も知りたい事も、挙げ句、聞かれた事に答える事さえままなっていない」
「見なさいったって・・・」
「揚げ足を捕らない!」
「ご自身で遠ざけている節も多分にあるかと・・・」
「減らず口を叩かない!」