第25章 犬も喰わない・・・・
「ならあなたは寝っ放しという訳だ。何ですか、夢落ちですか?下らない」
「・・・何汐田藻裾みたような事を言ってるんです?気は確かですか、干柿さん」
「大根三本一気食いするような人に正気を疑われるとは心外ですね」
「大根関係ないでしょう、今」
「何です?豆腐五丁の方が良かったですか?」
「すいませんけどね、あまり好ましくない嗜好の話は止めて下さいませんか。品性が疑われているようで滅入ります」
「・・・フ。いいんじゃないですか?たまには滅入るくらいの方が丁度いいですよ、あなたは。減らず口を聞き付けているといっそ滅入って弱っている方がまだしも可愛らしく見えるというものです」
「・・・人を手負いの半野良扱いですか。頭に来ますねえ・・・」
「ほう、半野良。実に言い得て妙ですねえ。自覚を持つのは立派な事と以前にも言った覚えがありますが、どうやらこれも本格的にあなたの数少ない美点に数えていいようだ。良かったですねえ、牡蠣殻さん。悪貨を駆逐するには至らずともなけなしの良貨がない事もなくて」
「・・・干柿さん、貴方本当に何しにここまで来たんです?喧嘩売りに来たんですか?いくら貧乏な私でも喧嘩なら買いますよ?買って欲しいんですか?」
「喧嘩を買う程の気概があるなら目の前の厄介事から逃げ出すのを止めなさい。あなたはもっときちんと人と向き合う必要がある」
「頭がいいと人に説教したくなるものなんですかね。いちいち人のやり方に口を出さないで下さい」
「あなた、浮輪さんをどう思ってます?」
鬼鮫の問いに牡蠣殻は虚をつかれた。
「どう・・・って、どういうどうです?」
「浮輪さんはあなたを連れて行きたかったんじゃないかと思いますよ。彼はあなたに何かしら感情の揺れを抱いているようでしたが、どうもそれは伝わっていない様子ですね」
「・・・はあ・・・?あの・・・・これはどういう類いの話なんですか?」
「あなたがバカだという話ですよ」
「・・・その話なら聞き飽きているような気がするのですが」
「あなたは私を好きだと言いましたが」
鬼鮫の言葉に牡蠣殻はピクリと反応して落ち着きなくそっぽを向いた。今度は鬼鮫が虚をつかれる。
「・・・何です、その反応は」
「・・・勘弁して下さいよ・・・」
「まさか恥ずかしがっているんですか?割りに簡単に口にしているように見えたので意外ですよ。ちょっと引っ叩いていいですか?」