第24章 It's foolish bird that own.
鬼鮫はまだ何か言いたそうにしたが、溜め息を吐いてそれを呑み込んだ。
「一服するんでしょう?付き合いますよ」
「すいませんが退いて貰えませんかね?それはまだ私の部下ですよ。積もる話が残っている」
廊下の角に腕組みして身を持たせた波平に、牡蠣殻は驚いた。隠れる筈もない鬼鮫を背後に庇い込もうとするも、鬼鮫自身に退けられてしまう。波平はその様子を見て僅かに笑った。
「知己の人?また随分と大柄な。いやはや、天をつくとは正にこの事」
「知己ねえ。成る程、知己でもありますね」
ビッタビタに水を吸ったスポンジもかくやの含みのある言い方をして、鬼鮫は牡蠣殻の腕を引いて後ろに退がらせた。
「待って下さい、干柿さん。話がややこしくなる・・・・」
「黙んなさい」
「いや、でも・・・」
「磯は散開するようですね。あなたが外に出るのに障害はなくなった訳だ」
牡蠣殻の腕を掴んだまま、鬼鮫は低い声で言った。
「だから話がややこしくなるからちょっと待っ・・・・」
「確かに磯辺は里を出るつもりのようですが、まだ決まった事ではありませんよ。しかし障害とは心外ですね。初見の方にそこまで言われるのは業腹だ。・・・散開は見合わせましょうか」
眼鏡をかけ直しながら波平がとんでもない事を言い出す。
「ええッ!そんな簡単な事でいいんですか!?ちょ、波平様?呑んでもないのに酔ってらっしゃる?」
「黙りなさい」
二人に同時にピシャリと言われ、牡蠣殻は口を噤んだ。
「思った通りいい加減な人ですねえ。人を束ねる器ではないようだ。散開が正解ですよ」
鬼鮫が薄く笑いながら言うのに、波平は顔色一つ変えずに頷いた。
「知らぬ間にあなたのような人から思われていたとは驚きましたね。正直気色よろしくはないですが。しかし的確なご指摘痛み入ります。その点については忸怩ながら誰よりよく弁えているつもりですよ。とは言え、どこの誰とも知らぬ方に改めて説かれる覚えはありません。磯辺にご用でしたら表でお待ち下さい。先程も申しました通り、私はまだこれに話がある」
「何の話です?思い出話なら時の経った頃合いにした方が趣深いと思いますがねえ」
「・・・あなたは昨年牡蠣殻を護衛なさった方でしょう?木偶の坊とは親しみましたか?文のやり取りとはまた古風な事ですね。しかし実際に会ったのは数える程度でしょう。知己と言うのにも憚りがありそうだ」