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連れ立って歩くー干柿鬼鮫ー

第23章 散開前


波平はツルを持ち上げて眼鏡をかけ直し、熱いお茶を啜った。
「で?何処に行っていたのかな?」
「知己の近くに移動したので、短慮にも会いに出向いておりました。身の上も弁えず申し訳ありません。・・・長老連と何か・・・?」
「それはいつもの話だ。お前の事がなくとも何かしらあるのだから気にしなくていい」
波平は飄々と言って眼鏡を外し、眉間を揉んだ。
「しかしまあ、いいところに戻って来てくれた。磯辺、私は磯を受動的に散開させる事にした」
波平は顔色一つ変えずに告げた。
「成る程。・・・投げ出しましたか。先生に会わせる顔がない・・・」
牡蠣殻も眼鏡を外して眉間を揉んだ。
「まあその先生の事を思えばいいタイミングでしたがね。人の事ばかり考えていては答えが出なくて当然です。貴方は一人しかいませんが、貴方以外の人間は五万といるんですよ。・・・子供みたような真似をなさいましたね」
「そうかな。で?お前はどうする?」
「本気なんですか?」
「前々から考えていた事だ。いや、私が父の跡を継いだ時にはもう決まっていた事なのかも知れないね」
「また・・・」
「卑下ではないよ。私はどう考えても参謀タイプだ。先代が身罷るのが早すぎた。私よりむしろ姉の方が跡目に向いていたろうに、皮肉な事だ。その資質の如何を問う出先で縁付き、更に出戻るとはね」
波平は淡々とお茶を喫しながら牡蠣殻から卓の急須にぼんやりと視線を移した。
「散開とは具体的にどのような形をとるつもりでおられます?磯を霧散させるおつもりですか?」
「同盟の木の葉は強い里だ。幸運にも磯の能力を必要ともしてくれている。残りたい者はここに残り、木の葉の傘下に入る。散りたい者は思う場所へ赴けばいい。・・・そしてもし私と行きたい者があるならば、例え外からは無実無名であっても、私はその者と磯人として今までのように流離おう。また誰の名乗りがなくとも私は今まで通り散在する磯の間を渡り歩き、思うところを流浪し続ける」
波平は改めて牡蠣殻を見た。
「それが私の取る散開の形だよ」
「・・・厳密には散開とは言えませんね。残る者が多ければ抜ける者の数の分脆弱になりましょうが、磯は磯です。そうして脆弱になっただけ危険も増しましょう。残る者達のあなたへの信頼を背負いきる覚悟はおありですか?」
「私もこう見えて満更モノを考えない訳でもないのだよ、磯辺」
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