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連れ立って歩くー干柿鬼鮫ー

第23章 散開前


「まった極端な・・・そしたら皆どうすんですか?」
「その気がある者は木の葉が喜んで引き受けよう。一体に磯は薬作りの技に優れ、穏やかで忍耐強い者が多い。木の葉は願ってもない職人達を味方にする事になる」
綱手の答えに藻裾は複雑な顔をする。
「まあ磯師の一族はね。そうですね」
「無論薬師にしろ、潜師野師にしろ、各々が優れた技能集団だ。お前は失せるのにこんな下手を打つところを見ると潜師の一族らしいな。泳ぎが達者だろう?」
綱手に問われて藻裾は頷いた。
「体力にゃ自信あります。・・・綱手様、何でそんな磯に詳しいんです?」
「五代目は私の父と少々面識がありましてね。色々と余人は知らぬ筈の事まで知っておられる。こちらからすると、単刀直入に言って厄介な方ですよ」
茫洋と波平が言う。藻裾は伺うように常と変わらぬ波平を見た。
「ふうん。色々知った上で磯を受け入れようってんですね。しかし散開するってのは好き勝手にしていいって話スよね?木の葉に残るのだけが選択ってこたないでしょ?」
「お前達の影はお前達に選択の自由を与えたいのだそうだ」
綱手はもどかしげな表情を浮かべて波平、そして殊更に藻裾を見詰めた。
「お前はどう思う?」
「うーん、そうだなあ・・・」
言い淀んだ藻裾はフと気が付いて辺りを見回した。
「そういや牡蠣殻さんは?」
「・・・戻ったんですか」
眼鏡をとって磨きながら、波平が独り言のようにポツリと言った。
「そら戻りますよ、朝飯食わなきゃねえもん。ハハハ」
「朝飯ですか。成る程ね・・・居なくなって欲しくないところで消えたので、戻らないかと思いましたよ」
「居なくなって欲しくないとこ?何スかそりゃ」
「聞かなくていい事を聞かされましたからね。あんなときはちゃんと話をしなければいけないのに、居なくなってしまった」
「何フワフワした事言ってんスか。インフル患ったインコみたくなっちまってますよ、波平様。まあ、おかしいのは元々・・・ん?元々だから別にいいのか。何だ、問題ねェや」
藻裾はサバサバと切り替えて綱手に目を移した。
「綱手様、アタシはさ、好きな男ンとこに行きますよ!だから散開してもいいかな」
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