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連れ立って歩くー干柿鬼鮫ー

第23章 散開前


藻裾は失せるのが苦手だ。
磯の中でもそうした一族の出自だからとも言えるが、本人が有り余る体力を全開したがるので苦手にますます拍車がかかる。
そういう訳で、彼女は目指した客舎の食堂ではなく、選りに選って木の葉の政務室に現れてしまった。
「あらま・・・」
綱手と波平が向き合うその真ん中、政務を執り行う卓上で、藻裾はポカンとした後、笑い出した。
「ダハハッ、すンごい事しちゃったよォ!アタシってば!こォりゃマイフェイバリットなンじゃない?額に入れて飾っちゃう!?アハハハハッ、ここまでのしくじりはやろうったってなかなか出来ないよ!?いっそ大物って感じ!?次期プレジデント来るか!?オバマを泣かすかァ!?安倍と握手しちゃう?アタシすんげエ!!!ハハハハハッ!!!」
「・・・おかえり、そして下りなさい、藻裾」
驚いた風もなく、波平が至極普通に促した。その向かいの綱手は、目をすがめて藻裾を見ている。
「随分不躾な現れ方だな。お前、磯の者だろう?」
「あ、失礼しました。藻裾と申します」
「ほう?で?」
「五代目、替わって謝らせて頂く。礼儀を知らぬ娘ではありますが、私の子飼いの部下なのでね。申し訳ない」
波平の言葉に綱手は鼻で笑った。
「最後の務めが近いとなると謝罪も大盤振る舞いだな。間もなくそうした気の利いた台詞も吐けなくなるぞ、波平」
「望むところですよ」
「今度こそ気は変わらないのか?どうしてもか」
「変わりませんねえ・・・」
「確かに地に足を着けろとも助力するとも言ったが、アタシは磯を消すつもりは毛頭なかった・・・破波が草葉の陰で溜め息を吐いてるのが目に浮かぶようだよ・・・」
「後程きちんと叱られますよ。今は仕方がない、住む世界が違うのですから」
「何をどこかの少女マンガでもみたような台詞を口走っている。何だ?破波はどこの世界で何して暮らしてるんだ?そっちでもウロウロしてるのか?ジプシーか?ボヘミアンなのか?連絡はつくのか?」
「・・・落ち着いて下さいよ、五代目。別に木の葉が散開する訳でなし・・・」
「ちょ、待って下さいよ。どういう事です?」
話を呑み込んだ藻裾が、呆気にとられて口を挟んだ。
「ちょっと留守にしてた間に何があったんです?波平様、散開って・・・磯が?」
波平は綱手と目を見交わして頷いた。
「そうですね、そうなるんじゃないかと思いますよ」

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