第22章 取り敢えずの円団と屈託のある別れ
「物怖じしない方ですね。あなたの妻女というには少々意外な気がしないでもありませんが」
取りようでは失礼な感想を口にする鬼鮫を見返して、深水は屈託なく笑った。
「何とでも。私が惚れ込んで望み続けて、やっとの巡り合わせで一緒になった宝です。何せ二十歳の昔から思い続けてきたのですから、幾ら大切にしてもし足りない」
「・・・それはそれは・・・。あなたらしいというか、年齢差を考えると警察が出張りかねないというか、良い話をありがとうございました」
大して興味もなさそうに鬼鮫は素っ気なく言った。
「それより、頂くものを頂いたのでお尋ねしますがね」
「何ですか?」
「磯影の返信の事があったにせよ、どうしてあのときあっさり渡してよこしたのです?あれだけ渋っていたものを・・・」
鬼鮫は訝しむというより気味が悪そうに尋ねた。深水は人の悪い顔をして、にやりと笑った。
「私なりに納得したからですよ」
「・・・・何をです?」
「さあ、何でしょうな。せいぜいお悩みなさい」
深水の言う後ろから、杏可也が顔を覗かせた。
「磯辺さんは逃げ功者ですよ。気を付けなさいませ」
「・・・あなたたち、夫婦そろって人が悪いですねえ・・・子供さんの将来が心配ですよ」
「お気遣いなく。過分に心遣い頂いては申し訳ないわ。さして見識もない方に」
鬼鮫は杏可也のもの柔らかな顔を面白そうに見た。
「何やら私に含むところがありそうですねえ。まあ、何かは聞きませんよ。周りを巻き込んで大金を払って手に入れたこれからです。そういう苦労を無駄になさらぬよう、どうぞお幸せに」
「あら、ありがとう。そうですね、心得ておきます」
微妙に棘のあるやり取りに深水は目を瞬かせて二人を見比べた。
「ほら、藻裾と磯辺さんが行くようですよ」
杏可也の言葉に鬼鮫は振り返った。
藻裾と牡蠣殻が揃って頭を下げた。牡蠣殻だけは鬼鮫に目を走らせると、口角を上げてもう一度頭を下げる。
「・・・あの女・・」
呟いて足を踏み出した瞬間、二人は消えた。