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連れ立って歩くー干柿鬼鮫ー

第22章 取り敢えずの円団と屈託のある別れ


「出家して豆腐も食わない坊主なんかいやしません」
「微妙に話をそらさない。全く目放しならない人だ。いかにも訳のわからない事で頓死しそうなんですよねえ、あなた。ちゃんと生きていけるんでしょうね?本当に磯に帰るんですか?」
「・・・・縁起でもない事言わないで下さいよ。頓死って・・・」
牡蠣殻は間を置いてうっすら笑った。眉をひそめた鬼鮫から目を反らして、深水と杏可也を眺める。
「まあ、今磯は木の葉にありますからね。木の葉に行きますよ、勿論」
「・・・磯に帰るんですよね?」
「干柿さん」
牡蠣殻の視線に気付いた深水が、鬼鮫を認めて手招きした。
心当たりのある鬼鮫は舌打ちして牡蠣殻を見下ろす。
「ちょっと話があります。ここで待ってなさい。いいですね?」
牡蠣殻は目を細めて笑った。笑った目が風に絡ぐ柳の葉のような笑顔で、鬼鮫は思わず腕を伸ばしてその首に手をかけた。
「・・・待ってなさい。わかりましたか?」
「干柿さん?」
深水が再び呼ばわった。
「呼んでますよ?」
「居なさい、ここに」
手を離して念を押すと苦笑が帰って来た。
「何です、子供じゃあるまいし。呼んでますよ。行って下さいな」
鬼鮫は牡蠣殻を一瞥して深水の方へ向かった。杏可也と寄り添い合う深水に鬼鮫はフッと笑った。
「仲がよろしいですねえ」
「残り半分をお渡ししますよ」
目の前を塞ぐように立った鬼鮫に深水が杏可也を目で促して言った。
「あなたが干柿さん?大きな方ねえ。杏可也と申します。深水と牡蠣殻がお世話になりました」
杏可也は物珍しげに鬼鮫を上から下まで隈無く眺め、にっこりした。
「見るからにお強そうだ事。一騎当千の体ですねえ。心丈夫だわ」
糸で綴じられた紙の束を差し出して、杏可也は鬼鮫を覗き込む。
「これを持つのがどういう事かはわかってらっしゃるのですよね?」
「あなたが意図するところがどうなのかは計りかねますがね。自分なりに考えがあって譲り受けるのですよ。どういう事かは受け取った私が決めます。差し出口は無用」
「フフ。面白い人ねえ。磯辺さんをよろしく。仲良くねとは言わないけれど?」
鬼鮫は眉を上げた。
「不憫なコ・・・」
誰の事なのか、ポツリと呟いて杏可也は深水の後ろに退いた。
鬼鮫は受け取ったものを懐に仕舞って、杏可也から深水に視線を移した。


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