第2章 遂行しづらい任務
「そう言えば牡蠣殻さん、朝食はおすみですか?」
「・・・干柿さんもいい具合にあちこち損なっておられるご様子ですねぇ・・・」
「何か?」
「朝食ですか?はい、滞りなくすませました」
「食堂でお見かけしませんでしたが、何を召し上がられましたか?」
「豆腐と昆布と茸です」
「・・・私は食材を聞いたのではありません。その組み立てを聞いたのですがね」
「豆腐をご飯がわりに、昆布と茸に出汁をかけて菜にしました」
「・・・出家してるんですか?」
「どういう解釈ですか、それは」
「貧相なもの食べてるんですねえ、お気の毒に・・・ああ、成る程・・・」
鬼鮫は眉をひそめて、牡蠣殻のスカスカした身体を眺めた。
「まさか気を使って食堂に来なかったんですか?」
「いいえ、好きなものが食べたかっただけです」
「でしょうねぇ。あなたそういう人だ」
「・・・干柿さん、貴方どんだけ暇なんですか」
「何せ仕事が出来ない状況なんでね。牡蠣殻さん、本、読まないんですか?」
「読めたもんじゃないですよ・・・何なら干柿さん、読まないですか?お貸ししますよ。部屋で読んで下さい」
「・・・あなた何が楽しくて何となく不安になっただけで自殺するようなツンデレ作家の本なんか読んでるんですか?」
「お、言いますね。じゃこっちはどうです」
「・・・あなた自滅願望でもあるんですか?いや、死にかけてるのに好き嫌いして木偶の坊になりたがるような作家の本は私には理解出来ませんから結構ですよ。こんな本ばかり読んで、悩み事があるなら私が喜んで息の根を止めて差し上げますがねえ?」
「アハハ、いやいや、干柿さん、面白い!じゃあこれはどうだ!」
「国費で外国に言って、愚痴ばかりたれて胃を壊した甘党ですか。まあ、割と読めますねえ。私の嗜好的には・・・」
「これは?これ!」
「・・・何で一転して乗り物酔いしそうな詩人を持ってきますか・・・まあこの人、写真写りはいいんで人気ありますよねえ」
「お詳しいですねえ。じゃこれは?」
「・・・あなた旅先でサドなんか読んで何考えてるんですか」
「・・・どうしてここに来て著者名を出すんですか。わざとでしょう」
「いや、意外ですねぇ。息の根の止めがいがあるというか、ないというか・・・」
「私の性的嗜好を勝手に決めつけないでいただきたい」
「ふうん・・・」
「ふうんって・・またえらく感じ悪く聞き流しますねえ」