第2章 遂行しづらい任務
予告通り戻って来た鬼鮫に、牡蠣殻は心底驚いた。
それがまた当たり前のように隣に座り、リラックスした様子で長い足を組んで落ち着いてしまったものだから、当惑を通り越して怯えが出るのも無理はない。
「あの・・・干柿さん?どうなさいました?お仕事は?」
「お休みですよ、今日明日」
「わぁお。ちょ、どっか行ったらどうですか?」
「ふ。楽しいですねえ、牡蠣殻さん。退屈しませんよ、あなたといると」
「いやいやいや、私ほど退屈な人間はそうそういるもんじゃありません。失望させてしまっては申し訳ないですから、さっさとどっかに行って下さい」
「面白いですねえ。どういう来し方をすればそんなに丁寧に暴言を吐くようになるんだか、大変に興味深い」
「・・・これは・・・こんなところにいたり、部屋を移らなかったりする私への、角度を変えたアプローチですか?」
危うく噴きそうになって、鬼鮫は足を組みかえた。
「語彙が豊富で結構ですねえ、牡蠣殻さん」
「・・・鮫殺し?」
牡蠣殻の一言に、鬼鮫はドンと卓上で拳を鳴らした。
「それをいうなら誉め殺しでしょう。当て付けがましい言い間違いをしない」
「 当て付けがましいなんてそんな・・・感じですね、成る程」
「・・・・・」
「・・・あの、干柿さん、どこか・・・」
「行きません」
「じゃあ、私が失礼・・・」
「させませんよ」
「・・・ちょっとよく呑み込めないんですが・・・何でこんな事になってるんでしょう・・・」
「あなた、最初に会ったとき、私を見なかったでしょう」
「は?何?何の話ですか?」
「私はあなたが一目で気に障った。なのにあなたは私に気付きませんでしたね」
「サッパリわかりません」
「それでますます苛ついたんですねえ・・・自分でも意外ですよ、こういう一面を持ち合わせていた事が・・・」
「・・・・それは、即ちスヌーピー・・・?」
ドン!
「誰がピーナッツですか」
「だからしてませんし、豆の話なんか・・・」
「それを言うならストーカーでしょう?本を読んでいて目だけでなく耳や頭を損なう人も珍しい」
「そんなあちこち損なってますかねえ、私」
「安心して下さって結構ですよ。私にそこまでの資質や時間はないし、あなたも誰かにそうされる素材は持ち合わせてませんから」
「そりゃ何よりの吉報ですね。ー早くあっち行って下さい」